小児科医は癒やしの司書に愛を囁く
小児科訪問
弟が息を引き取った時。
ちょうど私は小学校二年生だった。病院の廊下でひとり長椅子に座っていた。目の前は手術室。ランプは消えていた。父と母が泣きながら弟の名前を呼んで、何か叫んでいる。
私は、呆然としてその廊下を手術室と逆の方向へ歩いて行った。手には絵本。歩いていたら曲がり角で小学校高学年くらいの男の子とぶつかった。彼は私を見て驚いた顔をして言った。
「どうして泣いているの?」
「……ひーくんが……私の弟が死んじゃったの」
「……え?もしかして手術していた?」
「うん。でもダメだったんだって。どうして?ねえ、どうしてなの?」
私は絵本を落として彼の服を引っ張った。
彼は遠くを見るような眼で手術室のほうを見ていた。
私はそのまま彼の服から手を離して、駆け出していった。病院を出ようとしたところで祖父母に捕まり、弟のところへ戻った。
朝のアラーム音が携帯電話から鳴りだした。
私はいつものように音を止めると、ゆっくりと目を開けた。今日もまた同じ夢を見た。どうしてだろう?
最近よくこの夢を見るのだ。起き出して母と弟の写真の前に水をおくと朝の挨拶をする。
「お母さん、ひー君おはよう。何か教えたくてこの夢を何度も見せるの?でもね、とうとう今日から病院で貸し出しを始めるよ。私の夢がひとつ叶う。喜んでくれる?」
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