小児科医は癒やしの司書に愛を囁く
美鈴の家出《弘樹side2》
佳奈美さんとの縁談は回避することができた。しかし、いちばんの問題は院長親子ではなく、親父だった。
元々、この縁談は院長ではなく親父が佳奈美さんを言いくるめて始まった話なのだ。しかも、もちろん別な思惑を計算した上での事だ。
院長がそのことを知らぬ訳もなく、だからこそ破談になってもこの病院に残る意思があるか先に確認されたのだ。
俺の父は小児科専門医で俺が小さい頃は隣町に住田小児医院という病院をやっていた。
小さい病院だったが、入院患者も5人までは受け入れ、手術もしていた。母は外科医で、父の手伝いをしながら、執刀することもあった。
だが……両親は離婚している。俺は母に預けられた。まだ小学生だったからだ。
母は大学病院に戻り、俺はそれ以降ほとんどの時間、母の実家に預けられた。たまに父とどうしても会いたくて、父のことを見に行った。
ある日、知らない女の人と抱き合っていたところへ出くわした。父は困った顔をした。見られたくなかったのだと子供心に察した。