小児科医は癒やしの司書に愛を囁く

 その日の夜。先生から携帯にメールが来た。

 お父様が身体の調子が悪くなって、夕べから自分の病院に入院しているそうだ。

 義理の弟さんから電話があったそうで、見舞いに行くので遅くなるとのことだった。

 私は弘樹先生に、先生のお父様から電話があったことも、実は弟の主治医だったかもしれないことも、まだなにも話していない。

 実は弟の死因や詳しい事について私は幼かったのでよく知らない。ただ移植を必要としていたのに、判断が遅かったと母が言っていたのは覚えている。

 最後、手術室で亡くなった。詳しい事を一度父に聞いてみようかと実は思っているのだ。

 もし、先生のお父様に会うことがあったとしても、気持ちの問題があって、モヤモヤしたままだと作り笑顔さえ出来ないと思う。

 時間が出来たので、お風呂に入って少しのんびりしながら好きな絵本を読んでいた。あの七転び八起きの動物絵本である。この本を買ったのは実は三回目。

 一回目は図書館で借りて気に入って返したくないと騒いで、呆れた母にせがんで買ってもらった。

 二回目は、なくしてしまって買い直した。弟が亡くなった病院で落としたんだと思う。いつもあそこで読んでいたから。

 三回目がこの間の隆君へのプレゼント。絵本をパラパラと見ていたら、ガチャリという玄関の開いた音がした。

 私は玄関へ先生を迎えに行った。
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