小児科医は癒やしの司書に愛を囁く

 そう、病院はうちの両親が離婚する頃にはなくなっていたのだ。私は学校で住田小児医院はつぶれたと皆話しているのを聞いて驚いたのだ。

 弘樹さんの話がほとんど耳に入ってこなくなった。私は先生にどう伝えたらいいんだろう。まさか、廃業の原因だとは思わなかった。もしや、ご両親の離婚もそのせいなの?

「……って、美鈴?聞いてる?」

 ぼんやりと考え込んだ私に先生は気づいたのだろう、こちらを見て話しかけている。

「……あ、え?何でしたっけ。すみません、大事な話なのに……」

「お酒も入って、眠くなってきているところに重たい話をして悪かった。また、ゆっくり話そう。さあ、もう遅いし寝よう」

 そう言って、お酒の入ったグラスを私の分も持ち上げると片付けてくれた。私はぼんやりしたままベッドへ入り、先生は私を抱き寄せそのまま寝てしまった。

 私もすぐに眠ってしまったが、現実から寝ることでしか逃避できなかった。

 結局、先生は非常勤で週二回ほど住田病院へ通い始めた。
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