小児科医は癒やしの司書に愛を囁く
「違っていたらすみません。平田美鈴さんは弟さんを……」
やはり気づいていらした。そうだよね、私の名前も知っていたはず。名前を呼ばれていたことを今思い出した。私は覚悟した。
「先生。大変ご無沙汰しております。弟の仁史のことでは大変お世話になりました」
「やはりそうでしたか。平田美鈴さんというお名前と、弘樹から年齢を伺ったときにそうではないかと思いました。当時はまだ小さかったですよね。小学校入ってすぐぐらいだった。真新しい赤いランドセルを背負ったまま仁史君のお見舞いに来ていたのを昨日のように思い出します」
「院長先生に絵本を読んでいると頭を撫でてもらったことを私も昨日のことのように思い出せます」
院長先生は私の話に声を詰まらせ、下を向いた。
「申し訳ない。仁史君を救えず、本当に申し訳なかった。確か、ご両親は離婚されたと聞いた」
「院長先生だって、仁史のことが原因で離婚されたと聞いています。病院もたたまれて……こちらこそすみません」
「いや、それはこっちの問題だよ。君が謝ることではない。弘樹はこのことを知っているのか?」