小児科医は癒やしの司書に愛を囁く

 やはりそうか……。美鈴はわかっていたんだな。

「絵本を家で見た。あのとき、ぶつかって泣いた彼女が落としていった絵本だった。でもその時はまだ気づかなかったんだ。ベストセラーだし、彼女は司書だ。別に絵本を持っていたとしても不思議じゃない」

「お前は彼女の名前をよく知らなかっただろう。名字は特に……私は彼女の名前を知っていた。いつも呼ばれていたのを聞いていたし、年齢的に見てそうかもしれないと思ったんだ。でもそれは電話した後からだ。佳奈美さんに言われたときはとにかく確認だけしようと思ってあまり名前もよく見ないで電話した」

「俺が気づいてないと美鈴に言われたのか?」

「そうだ。実は訪問図書に来たとき、帰りに話をした。その日初めて顔を見て思い出したんだよ。間違いないと思った。面影が残ってる。それに……どこか仁史君にも似ているんだ」

 辛そうに話す父さん。まだ心の傷なんだな。でも、俺もそれはよくわかる。同じ職種に就いて、生死を見てきた。

「美鈴はなんて?」

「謝られた。離婚理由をお前から聞いていて、自分の弟のことだと思い至ったようだ。実際の離婚理由ではないから謝らなくていいと言った。お前、彼女にその話をしたときは時まだ気づいていなかったんだな」
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