小児科医は癒やしの司書に愛を囁く

「……俺は馬鹿だ。彼女はきっと傷ついたし、悩んでいたんだろう」

「まあ、しょうがないな。お互い言いづらい話だ。それより驚いたのは彼女自身の身の上だ。お母様が中学生の時亡くなられて、お父様も再婚して新たな家庭があるという話だ。お前と暮らす前までずっと一人で生活していたそうだな」

「実は恥ずかしいことに俺も最近知ったんだ。自分の家族のこともあまり話したくなかったので、彼女もそうかと思って聞かなかった。最初、同棲させたとき、帰るべき実家はないといわれたんだ。母は他界して父は別な家庭があると。だから誘ったんだよ」

「私は、それを知らずお前との同棲のことを最初聞いてしまった。申し訳なくてすぐに謝った。彼女はどれだけ大変だったろう。お前が救ってやらないと彼女はなんでもひとりでやってしまうんじゃないか?責任感も強そうだし、かといって甘えるのは下手だろう。早くに親から離れて誰も頼れない生活をしていたに違いないぞ」

 全くその通りだ。

「それで、美鈴のお母さんのことだけど、死因は聞いている?俺はそれが心配で……」

「お前も聞いてないのか……。私もそんな気がしている。実は仁史君が亡くなったのは、前にも言ったけれども決してうちのミスではない。急変したんだ。移植の出来る病院へ転院も決まっていた」
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