会ったことのない元旦那様。「離縁する。新しい妻を連れて帰るまでに屋敷から出て行け」と言われましても、私達はすでに離縁済みですよ。それに、出て行くのはあなたの方です。
 それは、彼のブヨブヨしている体格からは想像出来ないほど素早かった。だから、さすがのユリシーズもまったく動けなかった。

 もちろん、わたしもだけど。

 気がついたら、再びシャツの襟首をつかまれていた。それだけではない。その衝撃でうしろへよろめき、そのまま背中から長椅子に倒れこんでしまった。

 長椅子に倒れ込んだ瞬間、すごい衝撃が全身を走った。これが長椅子だったからよかったようなものの、床だったらその衝撃はかなりのものだったのに違いない。

 反射的に閉じてしまった瞼を開けたのと、重みを感じたのが同時だった。

 すぐ上にバートのたるみまくっている白い顔が迫っている。
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