会ったことのない元旦那様。「離縁する。新しい妻を連れて帰るまでに屋敷から出て行け」と言われましても、私達はすでに離縁済みですよ。それに、出て行くのはあなたの方です。
(殴り殺される)

 一瞬にして悟った。だけど、恐怖で体が凍り付くとか絶望で頭が真っ白になるとかはない。

 自分でも驚くほど冷静だった。バートの怒りに染まった茶色の瞳を見据え、毅然とした表情を崩さないでいられた。

「死ねっ」

 その叫びとともに、彼は右の拳を振り下ろした。

 それでもなお、拳がわたしの顔に当たるのだと予想し、やけにゆっくり向かってくる拳を見つめていられた。
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