会ったことのない元旦那様。「離縁する。新しい妻を連れて帰るまでに屋敷から出て行け」と言われましても、私達はすでに離縁済みですよ。それに、出て行くのはあなたの方です。
「アミは、おれが一生涯しあわせにする。このカニンガム公爵領のすべての領民たちも同様だ。カニンガム公爵家の代々の当主の功績、それから現在の当主であるアミの尽力と功績(それ)はおおきすぎる。とくに彼女の加護の力は、公爵領にとどまらず、わがリミントン王国の安寧と発展に貢献してくれている。それを考えれば、彼女を奉らねばならないほどだ。それを、おれごときの妻になってくれるという」
「殿下、それは……」

 クレイグ様は、わたしを過大評価しすぎている。彼の肘に手を添え、そっと止めた。

「とにかく、アミはしあわせになる。そしつあ、貴様らは先をも知れぬ身となる。後悔や反省をするとは思わんが、せいぜい悔しがるといい。近衛兵っ、連行してくれ」

 バートと彼の愛する人の周囲に立っている近衛兵たちが、彼らを連れて行ってしまった。

 バートは、ずっと俯いていた。

 睨まれるかと身構えていたが、そのような気力もなかったようだった。

 その後ろ姿を見たのが最後で、彼とは二度と会うことはなかった。
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