会ったことのない元旦那様。「離縁する。新しい妻を連れて帰るまでに屋敷から出て行け」と言われましても、私達はすでに離縁済みですよ。それに、出て行くのはあなたの方です。
「はなしなさい。そのはちきれそうな手をどけなさい」
「ま、またしても命令しやがって。この田舎娘っ、おまえはいったい何者だ?」
「この手をはなしなさい」

 命令とともに軽く手をはたいた。あくまでもほんの軽く。ほんとうに軽く。誓って軽く。

「ギャッ!」

 それなのに、バートは尻尾を踏まれた猫のような悲鳴を上げ、手をおさえてしゃがみ込んだ。

「こ、このクソ女っ! なんて力だ」

 彼は、うんうん唸りながら同じことを何度もつぶやいている。

 ちょっ……。

 軽く払った手があたった箇所が、みるみるうちに赤くなった。
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