見知らぬ彼に囚われて 〜彼女は悪魔の手に堕ちる〜

〜穏やかだった日々〜

………

 穏やかな彼と、少々引っ込み思案で臆病者のレオナ。
 婚姻で結ばれたばかりの若い二人。

 彼のために少しずつ家事を覚え、尽くすのが彼女の喜びだった。


「ねえ貴方。貴方は役者になるのが夢だと言っていたのに、本当に私と一緒にいてくれるの?」

 レオナの心配げな問い掛けに、彼は穏やかにこう返した。

「僕はもう、役者よりも君と一緒になると決めたんだ。愛しているよ、レオナ。君はどう……?」

「私も愛しています、貴方!」


 互いを想い合い仲睦まじく、二人の新しい生活が始まったばかりというときのことだった。

「レオナ!!」

 彼女は突如病に倒れる。
 遠い街から来た医者にもさじを投げられ、もう手の施しようのないままあっという間に彼女は死の淵へ。

「貴方、一緒に生きていたい……ずっと、一緒に……」

 寂しがりやな彼女の最期の願い。

 彼は悲しみのあまり願った。

「もう悪魔でもいい……どうか彼女を助けてくれ!!」

 彼の願いを聞きつけたのは、人間の欲を糧とする異形の者。

『彼女を助けたいなら、僕のこの条件は呑める?』

 異形の出した条件は彼女の、彼に関する記憶と彼の若さ。
 そして彼女を決して家から出さないこと。

『それから、彼女を毎晩奪って。彼女と一緒に生きていたいならね』

 異形は怪しげにクスクスと笑う。

 彼女はすでに虫の息。
 彼はレオナを失う悲しみに耐えきれず、異形の出した条件に頷いた。
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