見知らぬ彼に囚われて 〜彼女は悪魔の手に堕ちる〜

絶望に沈んで……

 レオナは部屋でしばらく待機させられたあと、用意された浴室に通された。

 こじんまりとしているが、掃除の行き届いた家。
 しかし男のほかは誰もいない。

 悪魔である男が、自身でこの家を全て掃除し管理しているとは思えなかった。


 支度をしていた彼女はそばにあった鏡をふと覗く。

 すると最初にこの家で目覚めたときの辛さを考えると信じられないほど、自分の姿は健康そうに見えた。

 髪はサラサラとなびき、肌は艶やかにスベスベとしている。顔は思っていたよりも幼さが残る、少々あどけない鏡の中の自分。
 身体はそれに見合うほど適度にほっそりとした手足にスラリとした背。

 覚えてはいないが、まるで自分の少々若い頃の姿ではないかと思うほど。

 男から、自分は売られていたと言われた。
 しかしこの姿では、身を売らなければならないほど生活が困窮していたようには見えない。

 レオナは首をそっと横に振り、湯船の方に顔を向ける。

 浴室の外には男が待っている。自分を逃さないためだろう。
 こんなことが、男が“死ぬ”まで続くというのか。

 いっそ自分で死ぬことが出来たらと思った。
 胸には重しでも乗せられたように重圧を感じ、頭にはモヤがかかったように思い出そうとする記憶を掻き消される。

 彼女は絶望の思いとともに、水に吸い込まれるように顔を沈めていった。
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