女風に行ったら、モテ期がきた
「もしかして、週末の酒がまだ残っちゃってますか?あの日は本当にすみませんでした」

「いえ、セーブできなかった私の責任ですから気にしないで下さい」

前田君は重ねて私に詫びを入れ、長谷川君を引きずって営業部へと戻っていった。営業部のチャラい感じは好まないが、彼はそう悪い人でもないのかもしれない。

その後も営業の人が何人か訪ねてきて、飲み会でのことを謝りつつも誘ってくるという謎の現象が続いた。仕事の邪魔だからやめて欲しいが、防ぎようがない。

ちなみに、みんなが私を名前で呼ぶ。痺れを切らして理由を聞いたら、酔った私が許可を出したらしい。心神喪失していたのだ、その許可は無効ではなかろうか。

「ミキさん」

昼休みの直前、 いい加減うんざりしていた私の機嫌は最高潮に悪かった。眉間に皺を寄せたまま振り向くと、前田君がぎょっとした表情で固まっていた。

「え?すみません、タイミング悪かったかな?体調悪そうだったから、よく効く胃薬持ってきたんですけど、、」

「あーごめんなさい。大丈夫です。午前中、仕事の進みが悪くてイライラしちゃって。薬、ありがとうございます」

「うちのやつらが邪魔しちゃったんですね?本当すみません。迷惑かけんなって俺から言っときます。ちなみにこの薬、飲んだら一発で胃のもやもや治るんで、食事の前に飲んで下さい」

薬を受け取り、お礼を言う。

「これ飲んで元気になったら、改めて、俺とランチに行きましょうね?」

押しが強い。そして断りづらい。さすが営業マンだ。彼の営業成績はいいに違いない。

前田君がくれた胃薬は確かによく効き、午後からは仕事の邪魔も入らず、彼の印象は更にいいものとなった。

しばらくすると営業の人達からの誘いは落ち着いた。気づけば例の発作も滅多に起こらなくなってきている。以前の穏やかな日常が、すぐ目の前にあるかと思われた。

「経理のお局様、ちょっときもくない?何を今更頑張ってんの?って感じ。老後が心配になって、結婚焦ってんのかねー」

もしかしなくても、これは私の話をしているのだろう。

化粧直しをする女の子達が私の悪口を言い始め、それを偶然トイレの個室に居合わせて聞いてしまうという不運に見舞われてしまった。最悪だ。色んな意味で最悪だ。

出るに出られなくなったので、甘んじて自分の悪口を聞き続けるしかあるまい。だがそこで突然、聞き覚えのある声が悪口を制止する。

「ミキさんは全然きもくないですよ!先輩達みたいに頑張らなくても、ミキさんは元から凄く綺麗だし!第一!ミキさんはひとりで立派に生きていけるくらい強いから、焦る必要もないんです!」

菜々美ちゃん!あなた、なんていい子なの!
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