女風に行ったら、モテ期がきた

離れたくない

「高城君、犯人が捕まったらしい」

次の日、午後から窓の修理に立ち会い、そのまま部屋の掃除をしていたら、警察から連絡がきた。

犯人は、同じマンションの隣に住む家の息子で、既に成人してフリーターをしている普通の青年だという。いや、あんなことをするのだから、普通ではないが。

「ミキさん、名字じゃなくて名前で呼ぶって約束しましたよね?」

「え?今そこ?」

「冗談です。とりあえず、これで少しは安心できますね、本当良かった。でも、隣の家となると、手放しでは喜べないですよね」

「そうだね、気まずいなんてレベルじゃない。それに不法侵入じゃ、拘束される時間は短いのかも、、」

「ねえ、ミキさん。結婚のことはともかくとして、引っ越して一緒に住みませんか?まだ打診されただけなので言ってませんでしたが、本社に戻る話が出てるんです。だから、本社と営業所の中間辺りで家を借りて、、通勤は今より大変になるけど、家賃は俺が出しますし、、」

「引っ越し、、」

この家を出るなんて、考えてもみなかった。でも確かに、高城君が本社に戻れば、私にはここ以外に住む場所はない。隣に変質者がいるこの家に、ひとりで住めるだろうか。

いや違う。違わないけど、問題はそこじゃない。私は今、高城君が本社に戻ってしまうことに動揺している。最初からわかっていたことなのに、こんなにすぐだとは思っていなかったから。

高城君と付き合うことになって、まだ一週間しか経っていないのに、、いや、まだ一週間だからこそなのかもしれない。高城君と離れることが、こんなに辛いと感じるなんて。

「高城君、、」

悠二(ゆうじ)

やけにそこ拘るな。まあいい。

「悠二君。先のことはわからないけど、今はまだ、悠二君と一緒にいたい。だから、、引っ越そうかな」

高城君が近づいて、私を優しく抱きしめる。

「ミキさん、ありがとう。凄く、嬉しい」

、、、、、。

そこからの高城君はもの凄かった。引っ越しに向けてやるべきことをリストアップし、怒涛の勢いでそれを潰していく。

警察や弁護士とのやり取り、家の売却についても、本来なら私がやらなきゃいけないことまで、十分過ぎるほど手助けしてくれた。

不安を感じる暇など一切なく、ひとりじゃ何もできない駄目人間になってしまいそうで、少し怖い。
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