女風に行ったら、モテ期がきた
セラピスト雅紀からのメッセージが届かなくなり、穏やかな日常が戻ってきた。例の症状はまだ続いているが、この調子なら、徐々に収まりそうな気がしている。

こんなことなら、もっと早く杏子に相談すれば良かった。

休憩所でそんなことを考えていたら、高城君が声をかけてきた。

「お疲れ様です。今年の暑気払い、俺が幹事なんですけど、来週末、石川さんも出席でいいですか?」

暑気払い、、もうそんな時期なのか。ビールはあまり好きじゃないが、ビアガーデンは嫌いじゃない。

「はい。出席でお願いします」

「、、もしかして、何か予定ありました?」

「、、?いえ、特には。大丈夫です」

恋人のいないアラフォー独身女の私に、会社行事を断るレベルの予定など、ほぼないのだ。

それよりも、早く話を切り上げて、私の前から消えて欲しい。別に高城君が嫌いなわけではないが、だからこそ発作が起きる。

「石川さん、最近雰囲気が変わったから、恋人でもできたのかなって思って」

そう言って、高城君は私から顔を逸らし、口元を手で覆った。

まずい。そういうの本当まずいから。お願いだからやめてくれ。

頭ではそう思うのに、口元を覆う高城君の指先から目が離せない。私は思わず息をのんだ。

彼の男らしい節くれだった指先は、あの日のことを容易に連想させる。

やばい、エロテロリストの猛攻が始まってしまう。高城君!逃げて!いやむしろ、私が逃げよう。

「ごめんなさい。ちょっと気分が、、」

慌ててトイレに駆け込み、個室にこもる。本当に勘弁して欲しい。この年まで品行方正に過ごしてきた私の努力が台無し過ぎて、泣けてくる。

「はあああ、、」

長いため息をつき、気分を落ち着かせる。仕事に戻らねば。

席に戻るとすぐ、高城君が近づいてきた。

「さっきの、踏み込んだ話でしたよね?すみませんでした。忘れて下さい」

周りに聞かれないようにするためか、小声で話す彼との距離が、いつもよりだいぶ近い。

高城君のその気遣いが追い打ちとなり、テロリストが追撃を開始した。これ以上、職場で醜態を晒すわけにはいかない。その後私は、やむなく早退せざるを得なかった。
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