悪女がお姫さまになるとき
惰眠を貪る余裕などなかった。
誰かが髪に触れる気配に、必死に瞼を開いた。
清浄な朝の空気を大きく吸い込んだ。
ベッドの横の椅子に座った男は、マントを羽織っていなかったが昨夜の男である。片側で三つ編みに編む銀色の髪が朝日に輝いて美しい。
日の光の元でみても、マント男は近寄りがたいほどの美貌である。
男は目を細めてわたしの髪に触れ、何かをつぶやいている。
一定のリズムで繰り返され、お経のようにも、怪しげな呪文のようにも思えた。
わたしが目覚めたことに気が付くと、顔を寄せてきた。
夜闇の中では濃い青い色の目だと思った色は、グレーがかった灰色の、氷のような冷たさを感じさせる色だった。
男もわたしの瞳を覗き込む。その近さに心臓がどきりと跳ねた。
男は何かきらりと青く光るものを口の中に含んだ。
視線がわたしの口元に注がれる。
まつ毛が長い。
こんなに美しい男に出会ったことがなくて、思わず見とれてしまう。
男がこれから何をしようとしているのか悟ったときには、唇を奪われていた。
舌が侵入し歯の間をこじ開け、口内を探られる。
舌を探し当てられ絡められた。