悪女がお姫さまになるとき
突然のキスにわたしは慌てた。
この美貌の男とキスしたい願望が自分にあったのか。
夢だと思おうとしても、感覚が生々しすぎる。
舌の奥に塊が押し込まれた。
わずかな圧で塊は弾け、口内中にどろっとした甘いはちみつのようなものが広がった。
そのまま飲みくだしてしまった。
「何を……」
「受け入れて、飲み込んで」
押しのけようとした手首が掴まれ、頭を固定される。
再び濃厚なキス。
やわらかな唇は、たばこでがさついた厚い唇の貴文とは全く違った感触だった。
このままだと窒息してしまう。
そう思ったときようやく体を拘束する重みが解放される。
「いきなり何するのよ!し、心臓が……」
爆発してしまう!
同意なしのキスは、犯罪ではないか。
男は顔を真っ赤にして唇をぬぐうわたしを、どこか冷めた目で見る。
「これで、君と話が通じることができるだろ?君と意志疎通ができないという状況をなんとかしなくてはならなかったから」
「言葉が通じている……?」
「風の魔力と俺の知識の言語能力を凝縮したものを君の体の中になじませるために、飲ませることが必要だった」
「昨夜、わたしに飲ませようとした青い菓子のようなものを?」
「その通りだ。君が乱暴な扱いをしたから砕けて散ってしまったから、もう一度作らなくてはならなくなった。魔力と時間の損害だよ」
「だからといって口移しで飲ませる必要ないじゃない」
「理由を説明するにも言葉が通じないだろ」
「ちょっと待って、言ってる意味がわからないわ!」