悪女がお姫さまになるとき
王城から迎えにきた帷子の騎士たちは10名。
彼らの隊長は50代の渋さがにじみ出た男、セドリック。
顔に刻まれた皺の深さと額に走る古い刀傷は、長年危険な任務をこなしてきた名誉の勲章のようなものかも。
黒いマント姿のシャディーンに頭を下げた。
シャディーンは軽く頷いただけ。
「賓客を王城まで我らがお連れするように申し受けました。どちらにその方がいらっしゃるのですか」
セドリックの視線が、わたしの上っ面をちらりと見ただけで通りすぎていく。
そしてぐるっとひとまわりして戻ってきて、行き過ぎて、うろうろして、ようやく見慣れないわたしにとどまった。その間たっぷり5秒。
「へ、こいつ?」
素っ頓狂な声が上がった。
セドリック騎士団隊長は飲み込んだが、代わりにその場にいる騎士たち全員の心の声を代表して吐露したのはその横の茶髪の男。他の騎士たちと比べてかなり若い。
U20(アンダートゥエンティー)。
わたしと同年代?
騎士修行中の見習いに違いないと勝手に思う。
こいつがハリーである。
「見習い騎士!わたしは藤崎樹里。高校三年生よ。なにも来たくてきたんじゃないわよ。勝手に……」
「僕は正騎士であって見習いじゃないよ!」
すかさずハリーが訂正し、わたしの声にかぶさった。
負けず嫌いが丸出しで、せっかくの絵画のような恰好が安く見えてしまう。
「君を紹介するのは王の前だ。何事にも順番がある。彼らは君が気にするほどのものではない」
腕をつかまれ、耳元に口が近づけられささやかれると、ただの言葉にも魔力があるのか背筋がぞくぞくする。
セドリック騎士隊長はじめ、その場にいる騎士たちの顔が一瞬でこわばった。
さすがに騎士隊長はすぐに反感を覆い隠したのだけれど。
シャディーンは権威主義的なところがありそうだ。
そして宮廷魔術師と騎士団、もしくはシャディーン個人とセドリック騎士隊長は仲がいいわけではない。
何に役にたつとはいえないけれど、ひとまず心のノートにメモをしておく。
人間関係の把握は基本中の基本で、知っていて損ではない。
初めての馬車に乗り、王が居住する城へと向かったのだった。