悪女がお姫さまになるとき


「これから城に入り、御前に挨拶することになるが、君は俺が見つけ出した存在だ。堂々と胸をはっていたらいい」
「光輝く強い命、だっけ?」

 魔術師(イマーム)シャディーンはうなづいた。
 わたしには自分がそんな存在であるとは感じられない。

「……異世界の娘は王の御前に行くのに緊張していないんだな」

 感心したようにシャディーンはつぶやく。
 入城した馬車から、シャディーンに手を引かれて降り立った。

 敬意を表して王の前では冬用ジャケットをキチンと着ることにする。
 少年楽団の膝上のスカートに生足を出し、男子の髪型だというわたしを、セドリック騎士隊長と同年代ぐらいの王はひるんだ様子もなく抱きしめた。王妃にしては10ほど若そうな金髪の女が盛大に鼻をすすりながらその次に抱く。
「その、奇抜な恰好に、もろに脚をさらしても恥ずかし気も感じないという羞恥基準の差、まさしくそなたは異世界の娘!ラソ・シャディーン、感謝するぞ!」

 歓迎されているのはわかった。
 対面した後、盛大な歓迎の宴が準備されているという。

「ラソ・シャディーンから詳細はまだなんだろう?宴の前に、わしの宝、レソラに会っていただきたい」

 レ、①貴婦人。淑女。②美しい人。
 ソ、①唯一無二の。②大事な人。命。
 ラ、貴族。高貴な。

「唯一無二の美しい……姫?」
 言語理解の能力と共に備わったものを動員して、レソラの意味を探る。



「そうじゃ。わしの娘、わしの命、我が国の輝ける至宝、アルメリア国第一王女のジュリアは、長らく病に伏している。光輝く強い命を持った娘が、きっとジュリアに光を照らし、再び輝く笑顔をとりもどさせてくれることになるはずじゃ」
「レソラ・ジュリア……」
「そなたは、ふじさきじゅり……じゅりといったな。ジュリアとじゅり、名前まで似ておる!シャディーン、今度こそ、期待しておるぞ!」

 王城の奥深くに、中庭に突き出たテラスをガラスで温室のように囲う部屋がある。
 その中は、ジャングルのように美しい花々とモンステラやコウモリランのような観葉植物で満たされていた。
 魔力で管理されているブーンという空調の音が聞こえる。
 猛暑でも極寒でも、この部屋は快適に整えられているそうである。

 陽光が降り注ぐ真ん中に、モンゴルのゲルのように真ん中を天に突き立てた形の、シルクの天蓋が光を浴びてきらめいていた。
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