悪女がお姫さまになるとき

「治療魔術ならラソ・シャディーンさまもお得意ではありませんか?レ・ジュリさま、お頼みになられてはいかがですか?」
 給仕を手伝う侍女は王妃と親し気に言葉を交わしていたが、わたしにさも思いついたように言う。

「俺はそんな姿勢矯正や疲労回復のようなつまらないことに魔術を使いませんので」
「まあ、レ・ジュリ、残念でしたね。つまらないことに貴重な魔力を浪費できないというイマームさまのお言葉もその通りだと思いますから……」

 シャディーンは憮然と断ると、王妃と侍女は心から申し訳なさそうにいう。
 わたしは唇をかみしめた。
 胃が食べたものを受け付けない。
 喉の塊を酒で流しこむ。強烈な匂いにひどくむせた。
 この世界の酒はどれも匂いが強すぎる。
 この世界で残念なことは、このまずい酒だ。
 何度もせき込んだので全員の視線がわたしに向かう。

 この嫌な感じ知っている。
 王妃も侍女も楽しいだろう。
 これはわたしに対して親切な態度をとりながら、わたしにいたたまれなくさせる遊びだ。
 いいようにいたぶられ、コケにされている。

 まさかわたしがいじめることはあっても、いじめられる対象になるとは思いもしなかったのである。

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