悪女がお姫さまになるとき

9、シンデレラ

「帝国の皇子はどういう人だったの?同じ学校に在籍していたこともあるのでしょう?」
「グリーリッシュ皇子のことをおっしゃられておられますか?」
「ジュリア姫を婚約者候補として求めてきたのはその皇子でしょう?気にならないはずがありませんよ」
「それもそうですね。皇子はまだまだ精神的に幼く、周囲が適切に導いてやらないといけないでしょうね」
「前評判とずいぶん違いますね。次期皇帝になる器の立派な若者だとわたくしはうかがっていたのですが」
「皇子だからそうあしざまに言えないのではないですか?評判と実物には乖離があるものです。ジュリアが目覚めたら、帝国へ顔合わせする必要もないと思いますが」
「顔合わせではなくて、皇子妃候補として一足早く花嫁修業に行くのですよ」
「ですが、皇子妃候補にあげられたために襲われたのですから。丁重にお断りをするようにいたしましょう」
「まあ、昔からあなたはジュリア姫を過保護に扱いすぎなのではないですか?帝国とのつながりは辺境の小国であるわたくしたちには喉から手がでるほど欲しいものですのに」
「かわいい妹たちは、自分を犠牲にしてまで苦労はしてほしくないですから」

 ルシルス王子はセシリア姫の視線を捕まえてウインクする。
 アイリス王妃とルシルス王子の会話が表向きにこやかに進んでいく。
 ジュリア姫の今後を本人不在で決めるよりも、まずは心が元通りに癒され目を覚ますことが先決なのではないかと思う。
 
 会話の矛先がわたしに向かわないで安堵する。
 そのままひとことも発する機会も与えられず、いたたまれない食事会がようやく終わる。
 侍女のアリサはアイリス王妃の侍女と隣にたち、わたしの置かれた状況を十分理解していて、顔をこわばらせていた。彼女の目からみても、わたしは哀れだったのだろう。
 

「部屋に戻るわよ」

 一番に退場するのが礼儀に反しているかどうか、おもんぱかる余裕はない。
 王妃にも彼女の侍女にも、一言だって言葉をかけられたくなかった。
 あたりの柔らかい言葉であったとしても、わたしを馬鹿にし嘲る本心が織り込まれている。
 いまでも、王妃の侍女たちの視線がべったりとわたしに貼り付き、粗を数え上げているのだから。
 会場を出る前に先手を打たれた。
 アリサが王妃の侍女に呼び止められてしまい、わたしの味方は足止めを食らう。
 わたしは一人で会場を後にしたのである。
 
< 31 / 37 >

この作品をシェア

pagetop