悪女がお姫さまになるとき
「膝もすりむいていないか診てやる。君は走っては転んでばかりだからな」
焦ったのはわたしだけではない。
「シャディーン、この娘を特別扱いしすぎじゃないか?」
「この娘の安全の全責任を負っているから当然のことだ」
「おいちょっと待て、コレはどうするんだ……」
王子は困惑して何かを言いかけていたが、シャジャーンは無視し、わたしを抱きかかえたまま部屋に運んだのである。
「失礼する」
裾が膝までまくられ、怪我がないか検分される。
シャディーンはハリーのようにわたしの素脚をみても顔を赤らめることはない。
わたしは彼にとって女として魅力の足りず、恋愛対象ではないということなのだろう。
素敵なレディの脚やらキスなら、堅物なシャディーンだってどきどきするはずだと思うのだ。
「他に痛みを感じるところはないか?」
わたしは顔を手にやった。
「なさそうだけど……」
わたしはその場で固まった。
首肩頭がやけに軽い理由は治療魔術の効果だけではなかったことに気が付いてしまった。
かろうじてひとつに結んでいた髪が、むき出しになっていた。
王子が明確に言葉にしなかった、コレとはわたしのかつらだった。
パンプスも片方脱げてしまっている。
これだとまるで、12時の魔法がとけた灰かぶり姫(シンデレラ)ではないか。
ルシルス王子は置き忘れられたかつらとパンプスを前にして、さぞかし困惑しただろう。
ひっこんでいた涙が再び盛り上がりそうになった。
甘いフェイスの異世界一推しの王子の前で、これ以上ないほどの醜態をさらしてしまったのだった。