悪女がお姫さまになるとき
真冬の水の中に飲み込まれて、悲鳴を上げることもできなかった。
生活排水も流れこんだ不衛生な水を飲み込みたくなかったが、空気の代りにたっぷりと飲んでしまった。
そのうちの一部が肺になだれ込む。
「ああ!樹里!樹里!」
美奈が、友人たちが、必死に叫んでいる。
対岸でも、貴文たちが騒いでいるのが途切れ途切れに見えたような気がする。
そうだ、おぼれても、多少流されても、わたしには貴文がいる。
貴文はもうやめてしまったけれどかつて水泳部員だったのだから。
そして苦しくなって気を失ったのだった。
貴文はわたしを助けられなかったのだろうか。
あのまま流されたとして、海にたどり着くには別の県をまたがなければならない。
何十キロも流されて、はたして冬の水の中で生きていることなどできるのだろうか。
ついでに季節もまたぐこともあるのだろうか?
不可思議さに笑い出しそうになる。
まだ夢の中なのかもしれない。
それとも、もう死んで、あの世に流れついたのか。
目覚めれば、冬ではなくて夏。
満月が口を開く夜の海。
ようやく浅瀬から上がり、乾いた砂を踏む。
口の中がざらつき、何度か咳をするとすっきりとした。
三途の川の水は、海水だっけ?
わたしは誰だっけ?
藤崎樹里。
高校三年。
一か月前に処女喪失した。
皆がうらやむ都会の大学に、推薦入試で早々に合格を決めた。
わたしたちのグループには、イケていない女子は入れない。
自他ともに認める悪女である。
生活排水も流れこんだ不衛生な水を飲み込みたくなかったが、空気の代りにたっぷりと飲んでしまった。
そのうちの一部が肺になだれ込む。
「ああ!樹里!樹里!」
美奈が、友人たちが、必死に叫んでいる。
対岸でも、貴文たちが騒いでいるのが途切れ途切れに見えたような気がする。
そうだ、おぼれても、多少流されても、わたしには貴文がいる。
貴文はもうやめてしまったけれどかつて水泳部員だったのだから。
そして苦しくなって気を失ったのだった。
貴文はわたしを助けられなかったのだろうか。
あのまま流されたとして、海にたどり着くには別の県をまたがなければならない。
何十キロも流されて、はたして冬の水の中で生きていることなどできるのだろうか。
ついでに季節もまたぐこともあるのだろうか?
不可思議さに笑い出しそうになる。
まだ夢の中なのかもしれない。
それとも、もう死んで、あの世に流れついたのか。
目覚めれば、冬ではなくて夏。
満月が口を開く夜の海。
ようやく浅瀬から上がり、乾いた砂を踏む。
口の中がざらつき、何度か咳をするとすっきりとした。
三途の川の水は、海水だっけ?
わたしは誰だっけ?
藤崎樹里。
高校三年。
一か月前に処女喪失した。
皆がうらやむ都会の大学に、推薦入試で早々に合格を決めた。
わたしたちのグループには、イケていない女子は入れない。
自他ともに認める悪女である。