騎士団長サマ、そのエッチな本音が丸聞こえですっ!!
ことの発端は数時間前、お昼を少し過ぎた頃のことだった。
アマーリエはセトルバーンの街からそう遠くない森を見回り中だった。
助けを呼ぶ女の子の声が聞こえたのは、三十分ほど経った頃のことだったか。
――いや~、やめて。やめてったら――
切羽詰まった感情のこもった声は、少女特有の高い声である。それに導かれ、道なき道を突き進み、眼前に現れたのは開けた空間と小さな泉だった。
その泉の上を光の玉が飛んでいる。
――やめて。わたしの泉を汚さないで!――
「もっと流せ。この泉を汚せば妖精の力も弱まる。そうすれば俺たちでも捕まえることができるぞ!」
泉の近くにいるのは数人の男たち。彼らの側には十数個のバケツが置いてあり、それらの中身をせっせと泉へドボンしている。
「そこのあなたたち! 不法投棄は止めなさいっ!」
アマーリエに気がついた男たちは、「げっ! 騎士団所属の魔法使いじゃねぇか!」「やばいぞ」などと言いながら逃げ出そうとする始末。
「逃がさないわよ!」
ひとまず拘束魔法を使い、男たちを捕縛した。自分の実力でもどうにかなった相手でよかった。何かあれば応援を呼べるのだが、同僚は森の別の方角を見回り中だ。すぐに駆け付けられるかは分からなかった。
泉の水は濁っていて、そのせいで宙に浮く光の玉、おそらく妖精なのだろう、は弱弱しい。
アマーリエは魔法を使い、できうる限り浄化をした。
――ありがとう、魔法使い。あとは自分でもどうにかできそうよ――
一度ぱっと強く光が弾けたと思ったら、目の前には可憐な少女の姿があった。
水に属する妖精だからだろう、青い髪に深い碧色の大きな瞳が印象的だった。見た目はアマーリエよりも若く見え、十代中頃のようなあどけなさだ。
手のひらに乗るほどの小さな姿かたちは、妖精特有のもの。
その妖精が両手を胸の前に組んだ。
すると、泉が輝きだした。十数秒後、泉の水の色は澄んだものへと戻っていた。
ホッとしたアマーリエは別の場所へ見回りに行こうと、足を踏み出した。
それを妖精が止めた。
――ちょっと待って。あなたへのお礼がまだよ――
アマーリエの目の前に小さな体がずずいと迫る。
――ここで恩を返せないとあったらわたし、この泉の管理を任せてくれた上司に会わせる顔がないわ――
「そんなこと言われても、ご覧の通りわたしは人間の世界の雇われ魔法使いよ。ここはセトルバーンの街からも近いでしょう? 普段から旅の傭兵や魔法使いの通行が多いの。だから、彼らの中で悪さをする人がいないように定期的に森や周辺を見回るのがわたしの仕事。だから、あなたがそこまで恩を感じることでもないのよ」
アマーリエは分かりやすいようにゆっくりした口調で言った。
セトルバーンの街中や周辺の街道沿いの治安維持がアマーリエたちに課せられた使命だ。人助けも妖精助けも任務の一つである。
とはいえ、こうして誰かの役に立って感謝をされるのは悪い気はしない。今日はごはんが美味しく食べられそう。そう思えることだけで十分だ。
――だめよ、だめ。お礼をさせて。ほら、貴重で可愛い妖精さんがお願いを叶えてあげるって言っているのよ! ここはどーんとお願い事する場面でしょう――
アマーリエの顔付近で妖精はキンキンと高い声を出しながら飛び交う。正直、羽虫よりも面倒くさい……と、思ってしまった。
――あ、あああ~、今、めんどくさって顔したわね! もうもう! お礼をさせてくれないあなたがいけないんじゃないっ!――
しかも羽虫と違ってこちらの僅かな表情筋の動きを察知する能力まで持ち合わせている。
これはもうとっととお願いごとを言って解放してもらおうか。
などと考える前にアマーリエにはまだ後始末が残っているのだ。
アマーリエはセトルバーンの街からそう遠くない森を見回り中だった。
助けを呼ぶ女の子の声が聞こえたのは、三十分ほど経った頃のことだったか。
――いや~、やめて。やめてったら――
切羽詰まった感情のこもった声は、少女特有の高い声である。それに導かれ、道なき道を突き進み、眼前に現れたのは開けた空間と小さな泉だった。
その泉の上を光の玉が飛んでいる。
――やめて。わたしの泉を汚さないで!――
「もっと流せ。この泉を汚せば妖精の力も弱まる。そうすれば俺たちでも捕まえることができるぞ!」
泉の近くにいるのは数人の男たち。彼らの側には十数個のバケツが置いてあり、それらの中身をせっせと泉へドボンしている。
「そこのあなたたち! 不法投棄は止めなさいっ!」
アマーリエに気がついた男たちは、「げっ! 騎士団所属の魔法使いじゃねぇか!」「やばいぞ」などと言いながら逃げ出そうとする始末。
「逃がさないわよ!」
ひとまず拘束魔法を使い、男たちを捕縛した。自分の実力でもどうにかなった相手でよかった。何かあれば応援を呼べるのだが、同僚は森の別の方角を見回り中だ。すぐに駆け付けられるかは分からなかった。
泉の水は濁っていて、そのせいで宙に浮く光の玉、おそらく妖精なのだろう、は弱弱しい。
アマーリエは魔法を使い、できうる限り浄化をした。
――ありがとう、魔法使い。あとは自分でもどうにかできそうよ――
一度ぱっと強く光が弾けたと思ったら、目の前には可憐な少女の姿があった。
水に属する妖精だからだろう、青い髪に深い碧色の大きな瞳が印象的だった。見た目はアマーリエよりも若く見え、十代中頃のようなあどけなさだ。
手のひらに乗るほどの小さな姿かたちは、妖精特有のもの。
その妖精が両手を胸の前に組んだ。
すると、泉が輝きだした。十数秒後、泉の水の色は澄んだものへと戻っていた。
ホッとしたアマーリエは別の場所へ見回りに行こうと、足を踏み出した。
それを妖精が止めた。
――ちょっと待って。あなたへのお礼がまだよ――
アマーリエの目の前に小さな体がずずいと迫る。
――ここで恩を返せないとあったらわたし、この泉の管理を任せてくれた上司に会わせる顔がないわ――
「そんなこと言われても、ご覧の通りわたしは人間の世界の雇われ魔法使いよ。ここはセトルバーンの街からも近いでしょう? 普段から旅の傭兵や魔法使いの通行が多いの。だから、彼らの中で悪さをする人がいないように定期的に森や周辺を見回るのがわたしの仕事。だから、あなたがそこまで恩を感じることでもないのよ」
アマーリエは分かりやすいようにゆっくりした口調で言った。
セトルバーンの街中や周辺の街道沿いの治安維持がアマーリエたちに課せられた使命だ。人助けも妖精助けも任務の一つである。
とはいえ、こうして誰かの役に立って感謝をされるのは悪い気はしない。今日はごはんが美味しく食べられそう。そう思えることだけで十分だ。
――だめよ、だめ。お礼をさせて。ほら、貴重で可愛い妖精さんがお願いを叶えてあげるって言っているのよ! ここはどーんとお願い事する場面でしょう――
アマーリエの顔付近で妖精はキンキンと高い声を出しながら飛び交う。正直、羽虫よりも面倒くさい……と、思ってしまった。
――あ、あああ~、今、めんどくさって顔したわね! もうもう! お礼をさせてくれないあなたがいけないんじゃないっ!――
しかも羽虫と違ってこちらの僅かな表情筋の動きを察知する能力まで持ち合わせている。
これはもうとっととお願いごとを言って解放してもらおうか。
などと考える前にアマーリエにはまだ後始末が残っているのだ。