騎士団長サマ、そのエッチな本音が丸聞こえですっ!!
キンキンうるさい妖精は放っておいて、同僚を呼びよせ、拘束した男たちをセトルバーンへと連行した。騎士団の詰め所へ引き渡し、一時拘束された彼らは、取り調べの上しかるべき罰が与えられるだろう。
よし、今日もよく働いたな。夕食は何かな。と、下宿先であるケストナー夫人の手料理を思い浮かべていると、耳元で金切り声が響いた。
――ちょっと。ちょっと。わたしの存在を無視しないでよう――
「うわっ! まだいたの? というか、ついてきたの?」
なんと、あの妖精がすぐ間近にいるではないか。
――当たり前でしょう。あなたにお礼をしないと、わたし皆に薄情者だって後ろ指を刺されちゃうわ――
その存在自体、すっかり忘れていた。
「アマーリエ、その光の玉が助けた泉の妖精ってやつか?」
「え、ええ。なんか、ついてきちゃったみたいで」
「あはは。すっかり懐かれたな」
同僚が呑気な声で笑っている。どうやら目の前の妖精は、同僚にはその正確な姿も声も見せてはいないようだ。
彼は片手をひらひら振り「おつかれさま~」と言い、立ち去った。
そろそろ勤務終了時間だ。
「じゃあわたしも上がろうかな」
――ちょっと。わたしの存在を無視しないでよ――
「でもねえ。お願いごとって言われても、わたし今困っていることなんか特にないし……」
と言うアマーリエの語尾が途切れた。
騎士団の建物から一人の男性が出てきたからだ。
白銀のさらさらした髪にすらりとした長身。すっと通った鼻筋に冷たさを宿した切れ長の紫色の瞳。一言で言えば滅多にお目にかかれない美丈夫である。
「げ……」
その美貌の彼を前に、表情筋を固めるのは騎士団所属の人間なら誰もが一度や二度の経験はあるだろう。
彼、バーナード・ヘルツオンはこのセトルバーン騎士団の団長を務めており、魔力も高く剣の腕も抜群で、頭も切れる有能な人物なのだが、いかんせん愛想というものがなかった。
真っ直ぐに引き結ばれた唇に常に変わらない表情筋。ついた二つ名が吹雪の騎士団長である。真冬の吹雪と同レベル並みに怖いという意味である。
――あら、あなた。あの人のこと苦手なの?――
「え、ええ。優秀で公平なお人なのは分かっているんだけど……、あの通り厳しい表情をされているでしょう? 何を考えているのか読めないし、わたし、何かと注意されることが多くて」
――ふうん? あ、じゃあわたしがあの男を消し炭にしてあげたいところだけれど、わたし人を殺すことができないの。そこまで力が強くないから――
「強くなくて心底よかったわ……」
さらりと物騒なことを宣う妖精である。力の制限があって本当に良かったと安堵した。
――人の子にしては美しいと思うけれど、人間て色々と複雑なのねえ――
「あの見た目に騙……ゴホン。惚れてアタックをした女性たちも数秒で玉砕したっけ。公爵家の次男なんだけど、そっち方面からくる縁談も、愛想のなさに令嬢の方が怯えてお断りをしてくるそうよ」
――ふうん――
その騎士団長、バーナードはアマーリエに向けてずんずんと歩いてくる。
もしかしたら、今日の報告書をさっさと書いて寄越せという催促かもしれない。
でも一緒に回っていた同僚も帰宅をしたし、終業時間間近だし、規定では翌々日までに出せばいいことになっている。
だが、何を考えているか分からないバーナードを前にすると体が固まってしまい、頭の中に浮かんだ台詞が全てすっ飛んでしまうのだ。
「はあ……。騎士団長の考えていることが分かればいいのに」
――それが願いね! 受理したわ――
思わず吐き出してしまった呟きに、嬉々とした返事があった。
「え……?」
呟くアマーリエの体の周りを妖精が一周飛んだ。
そして――。
よし、今日もよく働いたな。夕食は何かな。と、下宿先であるケストナー夫人の手料理を思い浮かべていると、耳元で金切り声が響いた。
――ちょっと。ちょっと。わたしの存在を無視しないでよう――
「うわっ! まだいたの? というか、ついてきたの?」
なんと、あの妖精がすぐ間近にいるではないか。
――当たり前でしょう。あなたにお礼をしないと、わたし皆に薄情者だって後ろ指を刺されちゃうわ――
その存在自体、すっかり忘れていた。
「アマーリエ、その光の玉が助けた泉の妖精ってやつか?」
「え、ええ。なんか、ついてきちゃったみたいで」
「あはは。すっかり懐かれたな」
同僚が呑気な声で笑っている。どうやら目の前の妖精は、同僚にはその正確な姿も声も見せてはいないようだ。
彼は片手をひらひら振り「おつかれさま~」と言い、立ち去った。
そろそろ勤務終了時間だ。
「じゃあわたしも上がろうかな」
――ちょっと。わたしの存在を無視しないでよ――
「でもねえ。お願いごとって言われても、わたし今困っていることなんか特にないし……」
と言うアマーリエの語尾が途切れた。
騎士団の建物から一人の男性が出てきたからだ。
白銀のさらさらした髪にすらりとした長身。すっと通った鼻筋に冷たさを宿した切れ長の紫色の瞳。一言で言えば滅多にお目にかかれない美丈夫である。
「げ……」
その美貌の彼を前に、表情筋を固めるのは騎士団所属の人間なら誰もが一度や二度の経験はあるだろう。
彼、バーナード・ヘルツオンはこのセトルバーン騎士団の団長を務めており、魔力も高く剣の腕も抜群で、頭も切れる有能な人物なのだが、いかんせん愛想というものがなかった。
真っ直ぐに引き結ばれた唇に常に変わらない表情筋。ついた二つ名が吹雪の騎士団長である。真冬の吹雪と同レベル並みに怖いという意味である。
――あら、あなた。あの人のこと苦手なの?――
「え、ええ。優秀で公平なお人なのは分かっているんだけど……、あの通り厳しい表情をされているでしょう? 何を考えているのか読めないし、わたし、何かと注意されることが多くて」
――ふうん? あ、じゃあわたしがあの男を消し炭にしてあげたいところだけれど、わたし人を殺すことができないの。そこまで力が強くないから――
「強くなくて心底よかったわ……」
さらりと物騒なことを宣う妖精である。力の制限があって本当に良かったと安堵した。
――人の子にしては美しいと思うけれど、人間て色々と複雑なのねえ――
「あの見た目に騙……ゴホン。惚れてアタックをした女性たちも数秒で玉砕したっけ。公爵家の次男なんだけど、そっち方面からくる縁談も、愛想のなさに令嬢の方が怯えてお断りをしてくるそうよ」
――ふうん――
その騎士団長、バーナードはアマーリエに向けてずんずんと歩いてくる。
もしかしたら、今日の報告書をさっさと書いて寄越せという催促かもしれない。
でも一緒に回っていた同僚も帰宅をしたし、終業時間間近だし、規定では翌々日までに出せばいいことになっている。
だが、何を考えているか分からないバーナードを前にすると体が固まってしまい、頭の中に浮かんだ台詞が全てすっ飛んでしまうのだ。
「はあ……。騎士団長の考えていることが分かればいいのに」
――それが願いね! 受理したわ――
思わず吐き出してしまった呟きに、嬉々とした返事があった。
「え……?」
呟くアマーリエの体の周りを妖精が一周飛んだ。
そして――。