極悪人の抱き枕になりました。
「お母さんただいま!」


玄関には見たことのない黒革の男性者の靴が二足置かれていて、嫌な予感は的中した。
母親は昼間娘がいない内に男性を連れ込むことがしょっちゅうあった。

でも今回は少し違う。
ふたりも連れ込んでいるのは初めてのことだった。


「お母さん、いないの?」


話し声は聞こえてくるのに返事がなくて、夏波は靴を脱いでリビングへ向かった。
ドアを開けると、茶色い重厚感のあるテーブルを挟んでスーツ姿の男がふたり座っていた。
その前にうなだれたように座っているのは母親の姿だ。


「お母さん、この人たち誰!?」


咄嗟に夏波は母親に駆け寄る。
男の人たちが母親の彼氏じゃないことは見ればわかった。

きっちりと着込まれたスーツに、リビングに流れる重苦しい空気。
とてもデート中とは呼べない。


「あぁ夏波、帰ってきたのね」


いつもは夏波を見下すような笑みを顔に貼り付けている母親が、今日はやけにしおらしい。
猫背になり、上目遣いで夏波を見ている。
怯えているようにも見えて夏波は男ふたりを睨みつけた。
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