幸せでいるための秘密
 言われるまでもなくこんな場所ムリだ。

 身体的危険に騒音公害。それに加えて、いずれの物件も今の環境より駅まで遠く家賃が高い残念なものばかり。一日でも早く波留くんの家から出なきゃいけないとは思っていたけど、さすがに私もこんな物件では二の足を踏んでしまう。

 ちなみに三件目を見たあと案内されそうになった物件は、紹介写真にこの世のものではないものがガッツリ映り込んでいた。なんでそんな物件しかないんだこの地域。

「一緒に不動産屋さんまで来てくれたのに、ごめんね」

 このコーヒーは私からのお詫びの印。波留くんは最後まで自分でお金を出すと言っていたけど、結局私が押し切って奢らせてもらったのだ。

「いや、俺はむしろ嬉しいからいい」

 ご機嫌な波留くんに、もはや突っ込む気力すらない。

「物件探し自体は続けるつもりだから……」

「そうか……」

「なんでそんなに残念そうなの?」

「俺は中原と一緒にいたい」

 世間話のような調子で言う。

「出ていかれるなら、残念に決まっているだろ」

 返す言葉を見失ったまま、私はさまよう視線をごまかすようにカフェラテに口付ける。

 波留くんは相変わらず返事を求める様子もなく、自分のコーヒーを大事に大事に飲んでいた。
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