幸せでいるための秘密
第四章 地獄の始まり
「波留くんってさ」
「うん?」
「パジャマ、それしか持ってないの?」
土曜日の朝、彼が作ったピザトーストをかじりながら、私は訊ねる。
波留くんは自分の着ている服を――左胸に『波留』と刺繍された大学時代の部活ジャージを広げ、不思議そうな顔をしてみせた。
「ああ」
「まじか」
「まじだ」
なんというか、そこだけ猛烈にイメージ違いだ。
空想上の波留樹は、ブランド物のスーツを着こなし私服もすべて高級百貨店で揃え、パジャマは海外製高級シルクを使用……みたいなイメージがあったのだけど。
「ドラム式洗濯機なら、三時間もあれば洗濯と乾燥が終わるだろ? 買い替えの時に古い服を全部まとめて捨てたんだ」
「で、部活ジャージが生き残ったと」
「これは思い出のものだからな。中原だって同じものを買ったじゃないか」
確かに実家の押し入れには、まったく同じデザインで『中原』と刺繍されたジャージが眠っている。
思い出のものをパジャマとして使いつぶすのはいかがなものかと思いつつ、私はピザトーストの残りをカフェオレで一気に押し流した。波留くんは今の私との会話なんてまるで意識していないみたいで、朝のニュースを眺めながら自分の分のピザトーストをかじっている。
「買わないの?」
「ん?」
「ちゃんとしたパジャマ」
「うーん、中原が買えというなら買うが」
「買えって言うか、寝づらくないのかなと思って。ジャージで寝転がるとファスナーがごつごつするでしょ」
厚手の生地の真ん中を貫く銀色のファスナーを目で指す。
波留くんは少し考えるようなそぶりを見せていたけど、ふと思いついたように顔を上げると、
「中原が選んでくれるなら」
と言って、いたずらっぽくニヤリと笑った。
「うん?」
「パジャマ、それしか持ってないの?」
土曜日の朝、彼が作ったピザトーストをかじりながら、私は訊ねる。
波留くんは自分の着ている服を――左胸に『波留』と刺繍された大学時代の部活ジャージを広げ、不思議そうな顔をしてみせた。
「ああ」
「まじか」
「まじだ」
なんというか、そこだけ猛烈にイメージ違いだ。
空想上の波留樹は、ブランド物のスーツを着こなし私服もすべて高級百貨店で揃え、パジャマは海外製高級シルクを使用……みたいなイメージがあったのだけど。
「ドラム式洗濯機なら、三時間もあれば洗濯と乾燥が終わるだろ? 買い替えの時に古い服を全部まとめて捨てたんだ」
「で、部活ジャージが生き残ったと」
「これは思い出のものだからな。中原だって同じものを買ったじゃないか」
確かに実家の押し入れには、まったく同じデザインで『中原』と刺繍されたジャージが眠っている。
思い出のものをパジャマとして使いつぶすのはいかがなものかと思いつつ、私はピザトーストの残りをカフェオレで一気に押し流した。波留くんは今の私との会話なんてまるで意識していないみたいで、朝のニュースを眺めながら自分の分のピザトーストをかじっている。
「買わないの?」
「ん?」
「ちゃんとしたパジャマ」
「うーん、中原が買えというなら買うが」
「買えって言うか、寝づらくないのかなと思って。ジャージで寝転がるとファスナーがごつごつするでしょ」
厚手の生地の真ん中を貫く銀色のファスナーを目で指す。
波留くんは少し考えるようなそぶりを見せていたけど、ふと思いついたように顔を上げると、
「中原が選んでくれるなら」
と言って、いたずらっぽくニヤリと笑った。