幸せでいるための秘密
慌てて話を遮る私に、波留くんはちょっと首をかしげると、
「言い忘れていたが、きみに渡したお守り。あの中にGPS発信機が入っている」
と、なんてことのないように付け加えた。
「あそこは石川(美咲の旦那)が看護師として勤めている病院だろ。だから頼ったと思ったんだが、違ったか」
「……ええと、まあ……」
どっと脱力してしまい、私はその場でうなだれる。私の鞄にずっとついている『悪縁切』のお守りのことだ。
お守りを受け取ったときに感じた重みは神様パワーなんかじゃなくて、中に詰め込まれたGPSの重みだったらしい。彰良に腕を掴まれたとき、ピンポイントで駆けつけてくれたのもきっとコレのおかげなんだろう。
なんだか急に疲れてしまい、桂さんのことを説明する気力もなくなってしまう。石川くんが働いている病院だなんて知らなかったよ、私。
「それで当面の対策として、椎名に避難先の提供と中原の送迎を頼み……今に至る」
視線が自然と椎名くんの方へ向く。椎名くんはニコと笑って、ビールの缶に口付けた。
「これですべてだ」
「本当に?」
「…………」
いやな沈黙。
心の中で深呼吸をして、私は波留くんをまっすぐに見つめた。
「波留くんは大学の頃、私に嫌がらせをしてきた女子を二人退学させたよね。そういうことを、今回も……里野彰良にやっているの?」
波留くんは一瞬、嫌な記憶を思い出したように形の良い眉を寄せた。
それからゆっくりと間を置いて、私の方へ視線を向ける。彼の切れ長の瞳の中に、覚悟を決めた私の顔が映っている。
「俺は里野を殺してやりたいと思っている」
言い淀むことなく、彼は言った。
「でも、もう追い詰めるような真似はしない。きみが喜ばないと学んだからだ」
その言葉は――
たぶん彼が思っている以上に、私の心を安心させた。ほぅと吐息を漏らした私を見て、波留くんは怪訝な顔をする。私は別に彰良の無事を安心したわけじゃない。波留くんが他人を陥れるような、危険な行為に手を染めなかったことにほっとしたのだ。
「具体的にどんなことをしようとしているか、教えてはくれないの?」
「今は言えない。でも、きみに迷惑はかからないし、不快な思いもさせないはずだ」
私は少し考えて、結局追及するのをやめた。波留くんがそういうのであれば、信じようと思ったからだ。
重い沈黙が部屋の空気を蒸し暑いものに変えていく。波留くんはしばらく床を見下ろしていたけど、やがて力強く顔を上げると、
「中原」
挑むような、なじるような視線で、私の瞳を貫いた。
「きみが好きだ」
「言い忘れていたが、きみに渡したお守り。あの中にGPS発信機が入っている」
と、なんてことのないように付け加えた。
「あそこは石川(美咲の旦那)が看護師として勤めている病院だろ。だから頼ったと思ったんだが、違ったか」
「……ええと、まあ……」
どっと脱力してしまい、私はその場でうなだれる。私の鞄にずっとついている『悪縁切』のお守りのことだ。
お守りを受け取ったときに感じた重みは神様パワーなんかじゃなくて、中に詰め込まれたGPSの重みだったらしい。彰良に腕を掴まれたとき、ピンポイントで駆けつけてくれたのもきっとコレのおかげなんだろう。
なんだか急に疲れてしまい、桂さんのことを説明する気力もなくなってしまう。石川くんが働いている病院だなんて知らなかったよ、私。
「それで当面の対策として、椎名に避難先の提供と中原の送迎を頼み……今に至る」
視線が自然と椎名くんの方へ向く。椎名くんはニコと笑って、ビールの缶に口付けた。
「これですべてだ」
「本当に?」
「…………」
いやな沈黙。
心の中で深呼吸をして、私は波留くんをまっすぐに見つめた。
「波留くんは大学の頃、私に嫌がらせをしてきた女子を二人退学させたよね。そういうことを、今回も……里野彰良にやっているの?」
波留くんは一瞬、嫌な記憶を思い出したように形の良い眉を寄せた。
それからゆっくりと間を置いて、私の方へ視線を向ける。彼の切れ長の瞳の中に、覚悟を決めた私の顔が映っている。
「俺は里野を殺してやりたいと思っている」
言い淀むことなく、彼は言った。
「でも、もう追い詰めるような真似はしない。きみが喜ばないと学んだからだ」
その言葉は――
たぶん彼が思っている以上に、私の心を安心させた。ほぅと吐息を漏らした私を見て、波留くんは怪訝な顔をする。私は別に彰良の無事を安心したわけじゃない。波留くんが他人を陥れるような、危険な行為に手を染めなかったことにほっとしたのだ。
「具体的にどんなことをしようとしているか、教えてはくれないの?」
「今は言えない。でも、きみに迷惑はかからないし、不快な思いもさせないはずだ」
私は少し考えて、結局追及するのをやめた。波留くんがそういうのであれば、信じようと思ったからだ。
重い沈黙が部屋の空気を蒸し暑いものに変えていく。波留くんはしばらく床を見下ろしていたけど、やがて力強く顔を上げると、
「中原」
挑むような、なじるような視線で、私の瞳を貫いた。
「きみが好きだ」