幸せでいるための秘密
 心臓を掴まれたような感覚に、私は知らずつばを飲み込む。

「きみが望もうが望むまいが、俺は死ぬまできみが好きだ。きみに幸せでいてほしい。つらい思いはさせたくない。だから俺は自分にできる範囲で、徹底してきみを守るよう努めてきた」

「…………」

「驚かせてしまったのは申し訳ないと思っている。でも、俺の行動はすべてきみの幸せのためだと知ってほしい」

 少し目を逸らし、声を落として彼は言う。

「それだけは、信じてほしい」

 ……空気が重い。

 息を吸っても肺まで入っていかないのがわかる。

 私の額ににじんだ汗が、こめかみを通って首筋へ落ちる。何も見えない、聞こえない中で、汗の流れる感覚だけが別物みたいに過敏に感じる。

 頭が痛い。

「波留くん、……」

 続く言葉は舌先にかすみ、ぼやけた視界から唐突に波留くんの姿が消えた。

 重たいものが落ちる音がすぐ耳元で反響する。私の頭が床にぶつかったんだと、気づいたときにはもう目の前が真っ白になっていて。

「中原? ……中原!!」

 彼の焦った声だけが、はるか遠くに薄れていく。
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