幸せでいるための秘密



 目が覚めたとき、身体は妙に軽かった。

 白い天井に固いベッド。細いチューブを吊るす見慣れないスタンド……あれ? 私、椎名くんの家に泊めてもらっていたはずだけど……?

「起きた?」

 ハッとして傍を見ると、丸椅子で足を組んだ椎名くんが眠そうな目で私を見ていた。おはよう、と言いかけた口が、そのままあくびを嚙み殺す。

「脱水症だって。アルコールの過剰摂取と、汗のかきすぎ。あとは疲れも溜まってたんじゃないかって言われた。気分はどう? 調子は?」

「悪くない、と思う」

 軽く部屋を見回してみる。白いカーテンで仕切られたここは、たぶん病院の一室だろう。昨日波留くんと話している最中、私は意識を失って倒れてしまったのだ。

 もしかして椎名くんは、一晩中付き合ってくれていたのかな。ありがたさと申し訳なさで胃のあたりが重くなってくる。

「波留くんは……?」

「仕事行ったよ」

「そう……」

 昨日の話は、結局きちんと終わらないまま有耶無耶になってしまった。

 波留くんは今、どんな気持ちで仕事に向かっているのだろう。昨夜の切実な眼差しを思い出し、つきりと胸が痛んでくる。

「目が覚めたなら帰ろうか。体調不良で2,3日休むって会社に連絡しておきな」

 椎名くんは立ち上がると、タクシーを呼んでくると言ってカーテンの外へ出ていった。
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