幸せでいるための秘密
私の驚きを読み取ったのだろう、樹くんは目元で少しだけ笑うと、唇を唇で塞いだままゆっくりと体勢を変えた。抱かれた背中がマットレスに沈み、首に絡めていたはずの腕は彼の両手に縫い付けられる。
いつきくん、と言いかけた刹那、唇がひらくのを待っていたように舌先が中へ侵入した。逃げる舌が絡めとられて、唾液がちゅ、と音を立てて混ざり合う。とっさに傍らの椎名くんを見ようとしたけれど、咎めるみたいに両手で顔を掴まれた。
――今は、俺だけ。
燃え上がるような熱い瞳にまっすぐに見つめられて、自分の足先がシーツを蹴って軽く跳ね上がったのがわかった。
嚙みつきあう唇の隙間から濡れた吐息がこぼれ落ちる。
触れられてもいない下腹部が何かを待ちわびるように揺れる。
だめだと叫ぶ理性を無視して身体は素直に悦び悶える。
(のみこまれる)
もう無理――と思ったとき、ふいに唇が離れたと思うと、身体を起こした樹くんがぐいと手の甲で口元を拭った。冷たい空気が肺へ一気に流れ込む。私も彼も荒い呼吸で、ただ静かに見つめあう。
「ごめん」
切なく陰った表情は、熱の終わりを如実に物語っていた。
ほっとした反面、身体の奥ではやっぱり灯火がくすぶっていて、私は自分をごまかすように少し内腿をすり寄せる。
「樹くん、もう少しだけ……」
「わかってる」
私の頬にキスをして、樹くんは苦しそうに微笑んだ。
「今までずっと耐えてきたんだ。もう少しくらい我慢できる」
……このときの私の気持ちを、どう言い表せばいいだろう。
わかってない。わかってないけど、どうしようもなく彼は正しい。
樹くんの節くれだった指先が、汗で少し湿った私の髪を軽く撫でる。それから椎名くんの寝姿を確認して、彼はゆっくりと立ち上がると廊下の方へと歩いて行った。
どこにいくの、なんて野暮なことを聞く気はない。私は壁際に寄って、彼の寝る方へ背中を向けて丸くなる。
我慢、我慢。椎名くんと三人でいるときは、友達同士に戻ること。
私が言い出した条件だ。もちろん忘れてなんかいない。でも。
(身体が熱い)
今夜は私の方が――眠れないかもしれない。
いつきくん、と言いかけた刹那、唇がひらくのを待っていたように舌先が中へ侵入した。逃げる舌が絡めとられて、唾液がちゅ、と音を立てて混ざり合う。とっさに傍らの椎名くんを見ようとしたけれど、咎めるみたいに両手で顔を掴まれた。
――今は、俺だけ。
燃え上がるような熱い瞳にまっすぐに見つめられて、自分の足先がシーツを蹴って軽く跳ね上がったのがわかった。
嚙みつきあう唇の隙間から濡れた吐息がこぼれ落ちる。
触れられてもいない下腹部が何かを待ちわびるように揺れる。
だめだと叫ぶ理性を無視して身体は素直に悦び悶える。
(のみこまれる)
もう無理――と思ったとき、ふいに唇が離れたと思うと、身体を起こした樹くんがぐいと手の甲で口元を拭った。冷たい空気が肺へ一気に流れ込む。私も彼も荒い呼吸で、ただ静かに見つめあう。
「ごめん」
切なく陰った表情は、熱の終わりを如実に物語っていた。
ほっとした反面、身体の奥ではやっぱり灯火がくすぶっていて、私は自分をごまかすように少し内腿をすり寄せる。
「樹くん、もう少しだけ……」
「わかってる」
私の頬にキスをして、樹くんは苦しそうに微笑んだ。
「今までずっと耐えてきたんだ。もう少しくらい我慢できる」
……このときの私の気持ちを、どう言い表せばいいだろう。
わかってない。わかってないけど、どうしようもなく彼は正しい。
樹くんの節くれだった指先が、汗で少し湿った私の髪を軽く撫でる。それから椎名くんの寝姿を確認して、彼はゆっくりと立ち上がると廊下の方へと歩いて行った。
どこにいくの、なんて野暮なことを聞く気はない。私は壁際に寄って、彼の寝る方へ背中を向けて丸くなる。
我慢、我慢。椎名くんと三人でいるときは、友達同士に戻ること。
私が言い出した条件だ。もちろん忘れてなんかいない。でも。
(身体が熱い)
今夜は私の方が――眠れないかもしれない。