幸せでいるための秘密
『……あんたがそう言うなら、とっておこうかな。これ、お母さんの自信作だし』
それからひとつふたつ話をして、お母さんとの通話は終わった。長話になりそうなところを途中で切り上げてしまったのは、大したことのない地震に安心したというのもあるけど、一番はあの名前が頭から離れなかったからだ。
初恋の相手、サーレくん。
(名前からじゃどこの国の人なのかもわかんないな)
もやもやとした気持ちを抱えたまま、私は椎名くんの部屋を出た。サーレくん。サーレくん。頭の中でその名を何度も唱えながら、リビングの扉を何気なく開いたときだった。
樹くん。
と、知らない女性。
緩やかなパーマのかかったロングヘアーに、目鼻立ちのはっきりしたインパクトある綺麗な顔。重そうな胸を強調したタンクトップに、ぴたぴたのスキニーパンツがよく似合うプロポーション。
男性向けのいかがわしい漫画からそのまま飛び出してきたような女性が、ビーズクッションに寄りかかった樹くんのお腹に馬乗りになっている。赤いネイルの映える細い指が、彼の頬のシャープなラインをひどくいやらしく撫でつける。
「百合香」
事態が飲み込めず呆然とする私の姿に気づいたらしい。樹くんと、それから女性の目線が一斉に私へ向く。見つめられるとたじろいでしまうほど勢いのある美女の顔に、私は思わずドアノブを握ったまま一歩後ずさりしてしまう。
「し、失礼しました」
「あっ、百合香、待ってくれ」
押しのけようとした樹くんの手を遮り、美女はゆっくり立ち上がった。すっかり逃げ腰の私に向かい、真顔のままずんずんと大股で近寄ってくる。
「ひぎっ!?」
美女の両手がバチンと私のほっぺを包んだ。綺麗な顔がぐんと近づく。なんかすごくいい匂い。
ぎらぎらした大きな瞳があらゆる角度から私を見つめ、やがてふいと逸れたかと思うと、
「この子、玲一の? 樹の? まさか共用!?」
「一華ちゃん変なこと言わないでー」
キッチンから顔を出した椎名くんが、女性に向かってハイボールの缶を投げ渡した。
それからひとつふたつ話をして、お母さんとの通話は終わった。長話になりそうなところを途中で切り上げてしまったのは、大したことのない地震に安心したというのもあるけど、一番はあの名前が頭から離れなかったからだ。
初恋の相手、サーレくん。
(名前からじゃどこの国の人なのかもわかんないな)
もやもやとした気持ちを抱えたまま、私は椎名くんの部屋を出た。サーレくん。サーレくん。頭の中でその名を何度も唱えながら、リビングの扉を何気なく開いたときだった。
樹くん。
と、知らない女性。
緩やかなパーマのかかったロングヘアーに、目鼻立ちのはっきりしたインパクトある綺麗な顔。重そうな胸を強調したタンクトップに、ぴたぴたのスキニーパンツがよく似合うプロポーション。
男性向けのいかがわしい漫画からそのまま飛び出してきたような女性が、ビーズクッションに寄りかかった樹くんのお腹に馬乗りになっている。赤いネイルの映える細い指が、彼の頬のシャープなラインをひどくいやらしく撫でつける。
「百合香」
事態が飲み込めず呆然とする私の姿に気づいたらしい。樹くんと、それから女性の目線が一斉に私へ向く。見つめられるとたじろいでしまうほど勢いのある美女の顔に、私は思わずドアノブを握ったまま一歩後ずさりしてしまう。
「し、失礼しました」
「あっ、百合香、待ってくれ」
押しのけようとした樹くんの手を遮り、美女はゆっくり立ち上がった。すっかり逃げ腰の私に向かい、真顔のままずんずんと大股で近寄ってくる。
「ひぎっ!?」
美女の両手がバチンと私のほっぺを包んだ。綺麗な顔がぐんと近づく。なんかすごくいい匂い。
ぎらぎらした大きな瞳があらゆる角度から私を見つめ、やがてふいと逸れたかと思うと、
「この子、玲一の? 樹の? まさか共用!?」
「一華ちゃん変なこと言わないでー」
キッチンから顔を出した椎名くんが、女性に向かってハイボールの缶を投げ渡した。