婚約とは安寧では無いと気付いた令嬢は、森の奥で幸せを見つける
(ああ、なんて事……)

 どうしてこんな事になってしまったんだろう。
 ここまでの事になろうとは思わなかったのだ。
 ただ、ほんの少しだけ彼の心の隙間に入り込めたら良かった。
 それがいつしか、こんな事に……。
 手を離されたウイル様の目に浮かぶものは、困惑と……。
 
 自らの行動に、その手を眺めてから降ろす。
 困惑と、後悔だろうか?
 悔いるように顔をしかめ、ウイル様は反対の腕で私の背中へ手を回し、そのまま抱き起こして下さった。

「すまぬ」
「……いえ、……ごめんなさい」
「謝らないでくれ!」

 その怒号に身体が震えた。
 思わず出たのだろう、彼も自分の出した大声に驚いている。
 私を抱きしめる手に震えが生まれ、それが背中へと伝わり、彼の気持ちが私の心で形作れられる。

 怖いのは私だ。
 男の人に想われる事が、怖いのだ。
 あの王子との件が引いているなど思いたくは無い。でも、家族にも否定された事が、結果として恐怖に繋がってしまっていた。

 これでは、いけない。
 ウイル様には否などない。このような卑しい女が、俗世に囚われた女が共に生きて良いわけがない。
 だが、その前にまずは言わねばならない事がある。
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