婚約とは安寧では無いと気付いた令嬢は、森の奥で幸せを見つける
 しかし、どなたか? とんと見覚えは無い。
 私を聖女と呼んだ。何故?
 もしや、その容姿を見込まれた何処ぞの貴族様の影武者かアサシンか。
 であれば、私の命運もここまでか。あの王子は、私に死ねと言ったも同然なのだ。
 王都から追放された時点で、もう私には帰る場所なぞ何処にも無かったのだから。

「この身を捧げればお終いですか? それも良いでしょう。都合の良い事に人が訪れるはずも無い森だから」

 魔女が最期に美丈夫に討たれるというのは、身分を超えた演目になる。
 そこに平民も貴族も無い、大団円の物語だ。さぞ面白いだろう。残念ながら当事者なので舞台を眺める事は出来ないが。
 しかし、殿方が発した言葉はこちらの予想に無いものだった。

「貴女がその身を惜しまないと言うのなら、俺が貰い受けてもよろしいか?」

 アドリブが利きすぎた役者は、大成するのかしないのか。
 この大根にはわからない。
 だが、それがお望みならば乗ってみせよう、下手の横好き。

「鳩は飛んだ。今はそれが精一杯らしく、次が見えておりません」
「寄り木からなろう。俺もそれが精一杯だ、今の所は」

 私達は意気投合した。



 らしい。
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