選んでください、聖女様!

2

 登城してから、帰宅すると、リビングで楽しそうに談笑する声が聞こえた。
「ただいま」
「あら、おかえり。早かったわね」
 出迎えてくれたのは、母のゼナ。現役の聖女であり、尊敬する存在だ。隣にいた父ゼネトも顔を覗かせた。
「もう相手を決めたのかい?」
「ううん。時間を貰ったの」
「まあ、初めから決めるのは難しいからね」
 そう答える母だが、母は登城して夫候補の中にいた父に一目惚れし、その場で決めた猛者だ。夫決めには、あまり参考にはならないだろう。
「おかえりなさい、姉さん」
「ただいま、ティール」
 妹のティールは、聖女補佐だ。結界を張る際、聖女に魔力を与える五十人の中のナンバー二にいる凄腕の魔法使いだ。そんな妹は何時も相談に乗ってくれる。
「やっぱり、いなかったの?」
 小声で話しかけられ、小さく頷く。私の好きな人……リディスだ。彼も王宮のお抱え魔法使いだが、彼は候補にはいなかった。いてくれれば、真っ先に選んで終わりだったのに……。
「はあ……選ぶの大変だよ」
「文句を言わないの。これは国の問題でもあるのだから」
「はあい……」
 母に言われ、セラは溜息交じりに返事をする。そんな時、家のベルが鳴った。
「あ、はーい」
 椅子から立ちあがり、玄関を開ける。すると目の前には、会いたかった人物がいた。
「リディス!」
「やあ。ちょっといいかい?」
「入って入って」
 お邪魔します、と言い家に入ってくるリディスに、セラはドキドキした。登城したその日にやってくるなんて、もしかしてもしかしなくても……!? と変に勘ぐってしまう。
「おや、リディス君。いらっしゃい」
「お邪魔します」
「何か用事でもあったかしら?」
 母の声に「ええ」と答えるリディス。
「大切なお話があってきました」
 その言葉に、家族全員が緊張する。全員が椅子に座り、リディスの言葉を待つ。登城したその日にきて、そして大事な話があるだなんて……これは間違いなく、プロポーズに決まっている! セラは胸がドキドキと高鳴った。
「その、大事な話って一体……」
 父の声も若干震えている。それもそうだ。夫候補以外から夫を選ぶなんて前代未聞だから。胸を高鳴らせながらリディスの言葉を待つ。
「お許しが欲しいんです」
 その言葉に、セラは目を見開いた。家族の前で告白だなんて、リディスったら意外と大胆! こっちは受け入れる準備万端。さあ、早く言って!
「ティールと、結婚を前提に付き合わせてほしいんです」
「へ?」
 リディスの発した言葉に、セラは目の前が真っ白になった。今、彼はなんて言った?
「ティール」
 リディスは手を伸ばし、向かいに座るティールの手を取った。
「僕と、結婚を前提に付き合ってほしいんだ」
「リディス……」
 ティールは複雑な表情を浮かべていた。それもそうだ。私がリディスを好きなのを知っているから。
「真っすぐに頑張る君の姿に惚れたんだ。どうか、付き合ってほしい」
「でも……」
「いいじゃない! 二人ともお似合いよ!」
 にっこりと笑顔を向けて二人を祝福する。
「姉さんっ」
「セラ、祝福してくれるのかい? ありがとう!」
 既に付き合えると思っているリディスと、青褪めるティール。そんな二人に、セラは言葉をかける。
「凄くお似合いよ! リディス、ティールのこと泣かせたら許さないんだからね」
「ああ。絶対にそんなことはさせないよ」
「うんうん、じゃ、あたしは少し登城で疲れたから外の空気吸ってくるね」
 そう言い残し、セラは家から飛び出した。涙は絶対に見せない。泣かない、泣いてやるもんか!



「ティール、どうしたんだい? 泣いているのかい?」
「リディス、私、嫌な女よね……」
「え?」
 そう言うティールに、リディスは首を傾げる。
「嫌な女よ。悲しいって、辛いって思っているのに、それと同じくらい嬉しいと思ってしまっているの……」
 ティールは静かに涙を流した。
< 2 / 9 >

この作品をシェア

pagetop