選んでください、聖女様!
3
街の中を走る。人の目もくれず、ただひたすらに走り続ける。公園まで走り、人のあまり通らない公園の端の斜面に腰掛けた。
「私じゃなかったんだ……」
何時も仲良くしてくれたリディス。王宮で会っても、話しかけてくれて楽しく談笑もした。家に遊びに行ったり、逆に遊びに来てくれたりもしてた。だから、勘違いしてたんだ。リディスは私のことが好きなんだって、勝手に思い込んでた。
「馬鹿みたい……私……」
俯き、膝を抱える。涙で視界がぼやける。でも、泣いても意味なんてない。
「なにしてるんだ?」
振り返ると、つい先程再会した幼馴染のアンディがいた。アンディの顔を見るのは久しぶりだ。立派な騎士になったんだ。振り返った反動で、涙が頬を伝った。それを皮切りに、幾重にも涙が溢れ出した。
「おいおいっ、なんだよ泣くなよ! な?」
アンディはセラの隣に座り込み、そっと抱き締めてくれた。固い鎧に抱き締められながら、それでもアンディの優しさが伝わってきて、セラはわんわん泣き出した。
「ごめん……急に泣き出して」
鼻を啜りながら、静かに謝る。こんなに泣いたのは久しぶりだった。
「気にすんなよ。誰だって泣きたいときはあるんだ」
「……ありがと」
そう言ってくれるアンディが優しくて、セラは小さく礼を述べた。頭をぽんと撫でられる。
「そういえば、どうしてアンディは夫候補の中に居たの?」
「あー……本当は第一部隊の隊長に話が来てたんだけどよ、婚約者いたんだよ。だから俺が立候補した」
「立候補したの? なんで?」
首を傾げるセラに、アンディは頬を赤らめ指で掻いた。
「そりゃ……選んで欲しいからに決まってるだろ」
「え……」
アンディの言葉に、セラは頬が紅潮していくのがわかった。真っすぐ見つめられ、思わず恥ずかしくなる。
「俺を選べよ。絶対に、幸せにするから」
向けられる真っすぐな瞳は、真剣なのだと知らしめた。アンディは小さい頃、すぐに騎士隊の養成所に入ってしまったから碌に会えなくなっていた。そのアンディは今、こうして逞しくなってセラの前に戻ってきた。
「あ、その……」
「返事はいつでもいい。でも、昔から本気なのはわかってくれよ?」
頭を撫でられながら、アンディは優しく微笑んだ。何時の間にか大きくなってしまった幼馴染の変化に、セラはついて行くのが精一杯だった。
「送っていくよ」
「……良いの?」
「もう夕方だ。一人にする方が危険だろ」
そう言いながら、アンディは手を差し伸べた。そっとその手を握り、歩きだす。何時ぶりだろう。アンディとこうして手を繋ぎながら家に向かうのは……。
逞しくなった腕。剣だこができた手のひら。抱き締めてくれた分厚くなった体――。どれも昔のアンディとは違うが、確かにアンディだった。優しい所も、兄貴肌な所も、何も変わっていない。
家の前まで着き、アンディは手を離した。離された手が恋しくなったのは気の所為ではないだろう。
「ここまでで大丈夫だな」
「うん。ありがとう、助かった」
「気にすんなよ。お前は何かと溜め込む癖があるんだ。たまには発散しろ。胸くらい幾らでも貸してやる」
邪な感情は無いからな! と付け加えるアンディに、セラは笑った。
「そうそう、お前は笑ってる方がいい」
「あんた……昔から思ってたけど、恥ずかしくないの?」
「正直に言ってるだけだぞ?」
そうだ。アンディはこういう奴だった。うん、アンディらしい。セラはそう思った。
「じゃあ、またな」
「うん。またね」
手を振り、アンディと別れる。リディスのことは、何時の間にかすっきりすることが出来ていた。
「私じゃなかったんだ……」
何時も仲良くしてくれたリディス。王宮で会っても、話しかけてくれて楽しく談笑もした。家に遊びに行ったり、逆に遊びに来てくれたりもしてた。だから、勘違いしてたんだ。リディスは私のことが好きなんだって、勝手に思い込んでた。
「馬鹿みたい……私……」
俯き、膝を抱える。涙で視界がぼやける。でも、泣いても意味なんてない。
「なにしてるんだ?」
振り返ると、つい先程再会した幼馴染のアンディがいた。アンディの顔を見るのは久しぶりだ。立派な騎士になったんだ。振り返った反動で、涙が頬を伝った。それを皮切りに、幾重にも涙が溢れ出した。
「おいおいっ、なんだよ泣くなよ! な?」
アンディはセラの隣に座り込み、そっと抱き締めてくれた。固い鎧に抱き締められながら、それでもアンディの優しさが伝わってきて、セラはわんわん泣き出した。
「ごめん……急に泣き出して」
鼻を啜りながら、静かに謝る。こんなに泣いたのは久しぶりだった。
「気にすんなよ。誰だって泣きたいときはあるんだ」
「……ありがと」
そう言ってくれるアンディが優しくて、セラは小さく礼を述べた。頭をぽんと撫でられる。
「そういえば、どうしてアンディは夫候補の中に居たの?」
「あー……本当は第一部隊の隊長に話が来てたんだけどよ、婚約者いたんだよ。だから俺が立候補した」
「立候補したの? なんで?」
首を傾げるセラに、アンディは頬を赤らめ指で掻いた。
「そりゃ……選んで欲しいからに決まってるだろ」
「え……」
アンディの言葉に、セラは頬が紅潮していくのがわかった。真っすぐ見つめられ、思わず恥ずかしくなる。
「俺を選べよ。絶対に、幸せにするから」
向けられる真っすぐな瞳は、真剣なのだと知らしめた。アンディは小さい頃、すぐに騎士隊の養成所に入ってしまったから碌に会えなくなっていた。そのアンディは今、こうして逞しくなってセラの前に戻ってきた。
「あ、その……」
「返事はいつでもいい。でも、昔から本気なのはわかってくれよ?」
頭を撫でられながら、アンディは優しく微笑んだ。何時の間にか大きくなってしまった幼馴染の変化に、セラはついて行くのが精一杯だった。
「送っていくよ」
「……良いの?」
「もう夕方だ。一人にする方が危険だろ」
そう言いながら、アンディは手を差し伸べた。そっとその手を握り、歩きだす。何時ぶりだろう。アンディとこうして手を繋ぎながら家に向かうのは……。
逞しくなった腕。剣だこができた手のひら。抱き締めてくれた分厚くなった体――。どれも昔のアンディとは違うが、確かにアンディだった。優しい所も、兄貴肌な所も、何も変わっていない。
家の前まで着き、アンディは手を離した。離された手が恋しくなったのは気の所為ではないだろう。
「ここまでで大丈夫だな」
「うん。ありがとう、助かった」
「気にすんなよ。お前は何かと溜め込む癖があるんだ。たまには発散しろ。胸くらい幾らでも貸してやる」
邪な感情は無いからな! と付け加えるアンディに、セラは笑った。
「そうそう、お前は笑ってる方がいい」
「あんた……昔から思ってたけど、恥ずかしくないの?」
「正直に言ってるだけだぞ?」
そうだ。アンディはこういう奴だった。うん、アンディらしい。セラはそう思った。
「じゃあ、またな」
「うん。またね」
手を振り、アンディと別れる。リディスのことは、何時の間にかすっきりすることが出来ていた。