演歌界のイケオジ『神月京介』の恋心
「全部嘘だよ。仕事で極道のドラマの歌作るからマネージャーからの電話の時、それっぽいセリフ言ってたんだ」

 声のトーンを上げ、彼はそう言った。

「そうなんだ、ちょっと驚いた」

 言葉を疑いながらも、私は彼の言葉に合わせた返事をした。

 こんなに長い期間離れていた。知らない部分も多くあるだろう。むしろ知らないところばかりだ。今彼が言った言葉も、嘘か本当か分からない。

 ふたりの間には壊せない頑丈な壁があって、彼の内面に触れることは出来ない。

「なんか、こうやって話してると懐かしい気持ちになるね」

「そうだな」

 話題を変えた。

「小さい頃ね、私が悪女って呼ばれてた時のこと覚えてる?」
「うん。覚えてる」

「あの時は、きょうくんに救われたなぁ」
「えっ? 自分に?」

 話してる途中にオーナーが「新しい豆のコーヒー、評判いいから飲んでみて?」と、温かいコーヒーをテーブルに置いて、キッチンに戻っていった。

「ありがとうございます」

 ひと口飲んでみる。今までのと味の違いは分からないけれどオーナーがいれてくれたコーヒーはいつも美味しい。

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