君は私のことをよくわかっているね
(龍晴様はわたくしのことをなにもわかっていらっしゃらない。……わたくしも、龍晴様のことをなにもわかっていない)


 本当は、努力をすれば理解ができるのかもしれない。

 だけど、わたくしはもう疲れてしまった。
 期待したって意味がない。望んだところで叶わない。

 だったら、なにも考えないほうがいい。

 龍晴様は、今のままの関係に満足していらっしゃる。なにかを変えようなんて、思わないほうがいい。――そう思い知らされるのが嫌だから。


「誰か、わたくしをここから連れ出して」


 もしも後宮を出て、普通の女の子として誰かに愛される未来があるのなら――――わたくしは喜んでその可能性に手を伸ばすだろう。

 叶わぬ思いに身を焦がすくらいなら、ささやかな幸せがほしい。たとえ好きな人じゃなくても構わない――――なんて、あまりにも不実だろうか?

 それでも、わたくしは今、希望がほしい。決して叶わないとわかっていても、それでも。


< 15 / 76 >

この作品をシェア

pagetop