君は私のことをよくわかっているね
 それは子供の頃から何度も何度も読み聞かされてきた我が国の歴史。
 なにがあっても初代皇帝の――聖女の血を絶やしてはならない。守らなければならない――――そのために、この後宮は存在する。我が国の平和を維持するために。人々の幸せを守るために。
 だから、龍晴様がたくさん妃を持つのは仕方がないことなんだって、何度も自分に言い聞かせてきた。


「そのとおり。それがこの国の人々の知る建国の歴史だ。けれど、すべてが語り継がれているわけではない」


 天龍様はそう言ってそっと微笑む。わたくしは思わずドキリとしてしまった。


「神華が人々に聖女と崇められたとき、彼女のお腹のなかには男児がいた。けれど、その夫の存在について歴史のなかで語られることはない。……桜華は不思議に思うことはなかった?」

「それは……いいえ。そういうものなのだとばかり……」


 王とは、聖女とは、神に等しい存在。我が国の建国の歴史は、実話というより神話扱いされている。
 飢えた人々の腹を満たしたり、病を癒したり、荒れた土地を蘇らせたり、天災を鎮めたり――――それらは、人では決してなしえない神秘的な逸話だ。それらがすべて、本当に起こったこととは考えづらい。そういった事情を鑑みるに、神華に夫が存在しなくても不思議ではないというか、考えたことすらなかったのだけど。


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