君は私のことをよくわかっているね
「失礼いたします、桜華様」


 そのとき、部屋にいたのとは別の侍女から声をかけられた。気を取り直し、姿勢を正す。


「どうしたの?」


 わたくしが尋ねれば、侍女は深々と頭を下げた。


「今から陛下がこちらにいらっしゃるとのことで、先触れがございました」

「陛下が?」


 こんな早朝に、一体どうしたのだろう? 首を傾げるわたくしに、侍女は困惑した様子でコクリとうなずく。


「桜華様と一緒に朝食をとりたいとの思し召しだそうです」

「わたくしと?」


 龍晴様の朝食は、閨をともにした妃ととるという慣習がある。もちろん、公務の都合で朝食をとらずに本殿に戻られることもあるけれど、その際はわたくしの宮殿に立ち寄ることもない。こんなこと、本当にはじめてだ。魅音様の宮殿で、なにかトラブルでもあったのだろうか?


「理由はよくわからないけれど、急いで準備をしなければならないわね」


 たとえ慣習とは違っても、皇帝の言うことは絶対。誰も異を唱えることはできない。

 わたくしの言葉に、侍女たちの目の色がサッと変わる。わたくしは急いで身支度を整えた。


< 29 / 76 >

この作品をシェア

pagetop