君は私のことをよくわかっているね
 彼はわたくしの頭をくしゃくしゃと撫でたあと、ニコリと満足気に微笑んだ。まるで『これでいいだろう?』とでも言わんばかりに。


 だけどわたくしは、
 わたくしは――――嬉しいとは思わなかった。


 昨日までのわたくしなら、あるいは喜んでいたかもしれない。
 たとえ抱かれずとも、自分は特別なんだって。龍晴様に選ばれた存在なんだって。そんなふうに優越感に浸って、浮き足立っていたのかもしれない。

 だけど、今はただ、わたくしの事情に巻き込まれた妃たちが気の毒だった。

 人は嫉妬をする生き物だ。間違える生き物だ。弱い生き物だ。
 自分を大事に思うからこそ、誰かと比べ、羨み、苦しみ、ときにはそれを原動力にして動いている。


 わたくしは、魅音様や他の妃たちが羨ましかった。わたくしには決して得られないものを手に入れられることを、本気で妬んでいた。

 それを彼女たちにぶつけることはしなかったけれど、気持ちはとてもよくわかる。すごくよくわかる。だから――――


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