君は私のことをよくわかっているね
 龍晴様がわたくしを抱きしめる。

 龍神の血を引く陛下の言うことは絶対。そんなことは子供ですら知ってる常識だ。わかっている。おかしいと感じるわたくしのほうが変なんだって。

 だけど、わたくしの想いは、願いは、希望は――龍晴様にとってはどうでもいいんだろうなぁって。

 わたくしを大切だと仰いながら、彼は本当の意味でわたくしを大切にはしてくださらない。龍晴様に必要なのは、彼の思いどおりになる人形。彼の理想を忠実に守った神聖な――偽物のわたくし。


 だけどわたくしは、そんな綺麗な人間じゃない。醜い部分をたくさん持って生まれてきた、生身の人間だ。欲もあるし、ときに感情に支配される。龍晴様の望むとおりには生きられない。


 龍晴様にとってわたくしってなんなのだろう?
 ――どうしても疑問に思ってしまう。


「桜華……私の桜華」


 龍晴様に抱きしめられながら、わたくしは静かに唇を噛んだ。
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