君は私のことをよくわかっているね

8.それが人という生き物ですから

 龍晴様が内廷に戻られたあと、わたくしは後宮の最奥にある寂れた宮殿のなかにいた。
 少しサビ臭い寂れた部屋。ここには、我が国の歴史――特に後宮にまつわる記録が残されている。


(5年前、管理人に就任した当初は、よくこの部屋に入り浸っていたっけ)


 当時はまだ妃の数も少なくて、割り振りや人間関係に悩むこともなかったし、龍晴様もいつかはわたくしを妃にしてくださるだろうっていう期待に満ちていた。だから、日中の暇な時間を後宮を知るために費やすのは、いわば当然のことだった。

 この宮殿には記録を管理するために配置された専門の宦官たちがいて、わたくしのことを温かく迎え入れてくれる。滅多に客が来ないため、彼らは人に飢えているのだ。


「こうして桜華様がいらっしゃるのは2年ぶりでしょうか?」

「そうね……この2年、とても忙しかったから」


 挨拶を交わし、互いに微笑む。わたくしの返答は半分本当で、半分は嘘だ。

 2年前、魅音様が上級妃として入内した。後宮内の勢力が一気に変わった。それと同時に、わたくしが妃となる可能性も小さくなった。だから、この宮殿に来づらくなってしまったのだ。


(ここの宦官たちは、わたくしのことを可愛がってくれていたから……)


 わたくしが妃になれなかったことを残念がられるのが嫌で、自然と足が遠のいてしまった。期待を裏切ったことが心苦しかったのだ。


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