君は私のことをよくわかっているね
「陛下のまつりごとは、初代皇帝地龍様によく似ていらっしゃいます」

「え……? 地龍様に?」


 思いがけず、今日ここに来た目的の人物の名を言われて、わたくしは目を丸くする。


「ええ。陛下の打ち立てた政策は、地龍様の功績をなぞるものばかりです。もちろん、うまくいっているのですから、それ自体が悪いわけではございません。けれど、人は、人々の価値観は、時代は着実に動いている。いずれ、陛下があなた様の力を必要とするときが来るのではないでしょうか?」

「わたくしの力を?」


 なぜだろう? 以前のわたくしならば、心から嬉しいと感じただろう。
 こんなふうにわだかまりを抱えることはなかったに違いないのに。


「それで、本日はどのようなご用向で?」

「ああ。初代皇帝とその生母の――神華様の記録を調べたいの。できるだけ詳細に」

「ならばすぐにご用意しましょう。どうぞ、そちらでお待ちください」


 宦官たちはすぐに、ありったけの資料を用意してくれた。庶民に伝わるおとぎ話に、後宮の住人たちの日記、伝記、それから学者たちのまとめた考察まで、ラインナップは多岐にわたる。それらすべてに目をとおしながら、わたくしは静かに息をついた。


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