君は私のことをよくわかっているね
「けれど、当然いらっしゃったと思いますよ。神華様がどれほど神秘的なお方だとしても、この千年間、脈々と彼女の血が受け継がれてきているのです。根本的なところは普通の人間と同じでしょう」

「そうかしら?」

「そうですとも。人には言えない想いも、悩みも、当然あったと思いますよ」


 まるでわたくしの心を見透かすかのようにして、宦官たちが微笑む。心臓がドキッと小さく跳ねた。


「……本当に?」

「もちろんですとも。それが人という生き物ですから」


 資料に視線を落としたまま、わたくしは小さくコクリとうなずく。


 宮殿を出たときには、夕日はすっかり地平線の向こう側に沈んでいた。
 今夜は龍晴様はいらっしゃらない。昼間あんなことがあったのだもの。当然といえば当然だ。


(天龍様との約束の時間まであと少し)


 トクン、トクンと胸が騒ぐ。息を吸い、目をつぶり、ゆっくりと前を見据える。
 それからわたくしは、見送りの宦官たちに向かって手を振るのだった。
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