君は私のことをよくわかっているね
(落ち着いて)


 彼に天龍様とのやりとりを見られたとは限らない。
 わたくしは努めて冷静に、孝明に向かって微笑みかけた。


「あら、孝明。こんな時間に一体どうしたの?」


 尋ねれば、孝明は一瞬だけ言葉に窮す。それから、穏やかに瞳を細めつつ拱手をした。


「わたくしはなかなか寝付けなかったため、散歩をしておりました。すると、こちらに向かって星々が流れるのが見えまして――その先に桜華様がいらっしゃったという次第です」

「あら、そうなの」

(――もしかして、わたくしを探していたのかしら?)


 さすがは龍晴様のお気に入り。彼は決してポーカーフェイスを崩しはしない。
 けれど、寝付けなかったという部分はおそらく嘘だろう。なんとなくだけれど、そういう印象を受けた。


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