君は私のことをよくわかっているね
(ああ、わたくしはなんて愚かなの)


 龍晴様が名前を呼ばせたがると知っていながら、彼の名前を呼ばないことで己の価値を――――龍晴様にとって『後宮の管理人が尊い存在』であることを確認している。

 だけど、仕方がないじゃない。

 そうすることでしか、わたくしはわたくしの存在理由を見いだせないのだもの。それでもわたくしは、彼の妃にはなれないんだもの。


「今夜は魅音のもとに、ということだったね」

「はい……そのように手配しております」

「うん、いいね。私も同じ気持ちだった。さすが、桜華はやはり、私のことをよくわかっている」


 龍晴様はそう言って、わたくしの頭をポンポンと撫でる。思わず目頭が熱くなった。


(龍晴様、それは違います。わたくしはあなたのことがよくわかりません)


 彼がなにを考え、望んでいるのか。
 わたくしのことを本当はどう思っているのか。
 知りたくて、知りたくて、ずっとずっと考え続けているのに、わたくしにはその答えがわからない。


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