君は私のことをよくわかっているね
「ありがとうございます。あれからぐっすり眠れましたので、もう大丈夫です」

「それはよかった。だったら、これから一緒に朝食をとろう。桜華が眠っている間に準備をさせていたんだ」


 龍晴様がわたくしの手を引く。
 それからわたくしは、最後の朝を慈しむ暇なく、慌ただしく身支度を整え、食事の席についた。

 龍晴様と食べる料理は毒味の間に冷めていて、なんだかとても味気ない。
 けれど、わたくしは長い間、こんなふうに朝を龍晴様と一緒に過ごしたいと思っていたことを思い出す。ずっとずっと、こんな日が来ることを願っていた。


「美味しいね、桜華」

「ええ、とても。わたくし以前は、こうして龍晴様と食事をとるのが夢だったのです」


 なぜだか涙が滲んでくる。龍晴様ははたと目を丸くした。


「以前は? 今は違うの?」

「ええ。もう叶いましたから」


 夢はもう叶った。
 わたくしがこの後宮に――龍晴様に夢を見ることはもう二度とない。


「ありがとうございます、龍晴様」


 折角の機会だ。心からの感謝の言葉を口にする。
 龍晴様は箸を置き、ふぅと小さく息をついた。


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